EPSON R-D1s, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura
The Wind from Seattle Vol.47

小さな町の小さな劇場で「SNAPSHOTS」というミュージカルを見た。自分たちの子供が学校を出て巣立った後、仕事しか顧みない夫と乾燥した毎日の生活に愛想が尽き、旅行カバンに身の回りの物を詰めて家を出ようとした妻がふと手にとった写真アルバムには、自分と夫の若い頃、そして結婚した後の家族のスナップ写真があった。(舞台にセットされた部屋の壁のあちこちにその写真が次々と映し出される)帰ってきた夫と写真を見ながら様々な出来事を思い返している内に、一緒に送ってきた時間の重みを自覚しなおし、これからも共に暮らしていく決心をする、というストーリーだ。そう、スナップショットって人生の画像データなんだね。

LEICA M8, Thambar 90mm f2.2, Photo by Scott Tsumura

秋が深まるストリートは街路樹の紅葉も目立つようになってきた。人々が何となく足早に歩を進めているような寒い朝だった。このスナップショットの画面には自分は見えてないけど、撮っている自分がこちら側に立ち、同じ時同じ空間で肌にあたる風の冷たさも感じ紅葉の始まりを楽しんでいるのだから、実はこの写真の中にはボクもいるのだ。

LEICA M8, Thambar 90mm f2.2, Photo by Scott Tsumura

長い間ストリートスナップをしてきたが、写真画面には自分が写っていないので、そこに自分もいるという感覚はなく、ひたすら「他の人々」を撮った2次元画像という思いしかなかった。でもよく考えてみると、このシーンを撮りたいという意思をもってシャッターボタンを押しているボクもここにいるのだから、3次元的見方をすれば画像には自分も含まれている筈だ。更にその瞬間という「時」があるわけだから「ミンコフスキー時空」を加えれば、自分が撮った写真は自分にとって4次元画像であるといえるのではないだろうか。

LEICA M8, Thambar 90mm f2.2, Photo by Scott Tsumura

コーヒーの香り、人々の話し声や車の行き過ぎる音も聞こえてくる。そしてそれらをひとまとめにしたその時の空気感を思い出す。だから単なる平面風景でなく、自分も含めたその場の立体的な一コマなのだ。

LEICA M8, Thambar 90mm f2.2, Photo by Scott Tsumura

あ、いいなとカメラを構えた時には自分も同じく画面に溶け込んでいく。レンズは目となり、カメラと一体となってずかずかと向こうに入り込む。そんな気持ちでシャッターを切っている。

EPSON R-D1s, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

この時は自分が画面の一部どころではなく、物理的な存在さえも消えるところだった。M9-PとMモノクロームが共に修理で入院したので、昔使ってたエプソンのR-D1sを棚の奥から引っ張りだして使い始めた。防弾チョッキの厚みが並ではないポリスの背後からシャッターを切った瞬間、二人とも右腰に手をやりながら素早くこちらを振り返ったのでびっくりして固まった。しかし肝を冷やしたのは実は彼らの方だったのだ。このカメラのシャッター音が金属的な「カチン」という大きなメカ音がして、ピストルの撃鉄を起こす音によく似ている。だからその音にとっさに反応して応戦の構えをとったのだ。拳銃などの知識を持っていないわけでもないのに実に軽率な失敗。いや~5分ほどみっちり説教された。(この5分、5時間ぐらいに思えた)

LEICA M8, Thambar 90mm f2.2, Photo by Scott Tsumura

路上アーティストの実力は相当のプロそのもので、通り過ぎる人たちは足を止め歌に聴き入る。彼らの多くは、ひたすら町なかで演じて日々の糧を得ることに生きがいとスリルを楽しんでいると聞いた。冬になれば暖かい南へ行くという。苦労もあるのだろうけど、いいな、こういうフリーな生活。

EPSON R-D1s, Elmarit 21mm f2.8, Photo by Scott Tsumurar

コンサートの一夜。プログラムの一つはR・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」だった。ニーチェの哲学書をイメージし、自然、人生をテーマに作曲した壮大な交響詩で、たまたま例のミュージカル「SNAPSHOTS」を見た次の日だったので、自分の人生のスナップショットをだぶらせて楽しんだ。

EPSON R-D1s, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

この頃は穏やかな秋の陽気が続いていいなと思っていると、次の日は雨が降り風が強くて気温が急激に下がったりする。そんな早朝はとても寒く、開店したばかりの立ち飲みコーヒー店に駆け込んで、熱くて香り高い煎れたてをふーふーしながらすする。このひと時がウイークエンドの開放感を盛り上げてくれて気持ちも高揚する。さあ今日の一日のスタートだ。

EPSON R-D1s, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

家でもレストランでも食事はゆっくり時間をかけたい。食べるスピードがスポーツカー並みの知り合いが多くて、若い頃は先輩や友人のペースに合わせたりせねばならず、早食いが苦手な自分は本当に苦労した。年長になった今は同席した相手が食事の一部を残したりしてこちらが追いつくのを待ってくれているので、申し訳なくて急いで掻き込むことになる。

EPSON R-D1s, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

古く年季の入った棚、飲みかけのワインボトル、エスプレッソのカップ、レモンの切れはし、整然と並んだグラスとそして昔の給水給湯蛇口など、現役の「静物」はとても人間くさくてロマンチックな物語の雰囲気がある。

EPSON R-D1s, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

このカップルは夫婦ではなさそうだ。写真を見る限り女性の方が優位にあり、対して男性は彼女を愛する心を打ち明けるのを躊躇しているようだ。彼女はその言葉を今か今かと待っているのに。がんばれ!

スナップショット...たまたま同じ空間に居合わせて、あなた達の人生に気ままに参加させてもらって、一緒に笑い喜び悲しみ涙したい。そしてその4次元画像である我々の人生データを共有したいのです。

( 2015.10.16 )







Scott Tsumura

アメリカ合衆国ワシントン州ベルビュー市在住。73歳。
Tozai Inc. エグゼクティブプロデューサー。

» Scottさんblog "shot & shot"
» Tozai Games Global Site
» Tozai Games オフィシャルサイト

このページの上部へ