71回目の新しい年がやってきた。誕生日が正月だから正におめでとうなんだけど、昔は母子手帳とかがなかったと聞いているし役場への出生届けは親の裁量である程度日にちを変更することもあったようだから、自分の誕生日は別の日かと思ったりもする。昭和17年の干支は馬だが、風水上の暦では次の年の節分まで同じ年と考えるらしい。とにかく誕生日が前後しても母のお腹にいた時間からいうと実際は蛇だろう。だから干支が蛇であれば自分の特徴は探究心と情熱で、馬がかかっているからプラス陽気で派手好きということになる。ということで今年と来年は、この四つをまとめて実践することを目標に掲げようと思う。

自分は元来気が移りやすい性格だと思っている。仕事でも趣味でもそうだが、何となく楽しくない中身が見えてくると続けるのが億劫になるのだ。物事に対する自分の才能、能力が限界に来たと思えるとき、或いは自分が行き着けそうな終点にあまり魅力を感じられなくなり心が萎えたとき、無意識に次のものを見つけるアンテナを張り始めるようだ。

しかし趣味としての写真は案外長く続けて楽しんでいる。カメラというものを単に身の回りを記録する道具以上の興味をもって接し撮り始めたのは、27年ほど前ニコンF2フォトミックAと28mm、105mmレンズを中古で買った時だった。その後叔父の遺品のライカM5をズミクロン35mm、ズミルックス50mmと共に譲り受けた頃から、切り取られたフレームの中の描写が被写体の前に立った時の自分の思いと同化される面白さにのめり込んでいった。




その場で自分が感じたように表現されている写真を撮るのは本当に難しい。その一枚を追い求める道がずっと先まで続いていて、そしてどんなゴールなのかも分からないスリルが興味を失わせていないのだろう。昔と比べ、撮った中から残しておこうと思う写真の歩合が実に小さくなったのは、反射神経が鈍くなっていい瞬間を撮れなくなってきているのか、好みが変わったのか、自分の評価基準が高くなっているのか分からないが、まだ向上心を持って現状を楽しんではいる。

被写体は郊外の自然、街のストリート、建物、人物やその他何でもありだが、自分に課している撮影条件を一言でいえば「直感」だ。甘美な魅力のあるシーンと感じた時は、その世界を小さな枠の中に凝縮したいと躊躇なくカメラを向ける。そんな場面との「偶然の出会い」が特に自分を奮い立たせるのだ。




朝、目が覚めてぼんやりした頭で、カーテンのひだの隙間から明るくなった窓を見て自分がいる場所を認識でき、先ずはほっとした深呼吸で一日が始まり、そして夜、やっぱりぼんやりした頭で寝室の天井の蜘蛛の巣の跡を気にしながらナイトテーブルにめがねを置き、目を閉じるまでの長い時間何かを見ていることになる。ほとんどの場合無意識でも脳が自動的に視線を操作してくれるのだが、写真を撮る段になると目は、すわ一大事と感覚器官としての働きを研ぎ澄まして意図的に世間の平凡な生活や自然の中へ官能を潜り込ませ、想像と戯れながら味わいや美をちぎり取らねばならないのだが、それは通常視界全体としてあるのではなく一かけの部位に存在するので、心にあるセンサーをうまく目と連動させないと見落としてしまう。




有名なプロの写真でも、そのプリントの枠外の情報も画面に入っていたらきっと無味乾燥のつまらない写真になってしまうものも多いのではないだろうか。そこに写真の妙味があり、場面の切り取り方によってこそ主題がはっきりするし、物語が深まり映画音楽のように効果的なメロディーも盛り込まれてアレンジメントが完成するのだ。

情緒ある意味合いを漂わす一コマをすくい取ろうと、意気込んで目の前を流れていく視界全体の風景に懸命に気を配っても、なかなかそんな場面に出くわすことはない。例えいい出会いがあったとしても、次にカメラを向けシャッターを切るタイミングを合わせねばならない至難のスナップ道だからこそ挑戦のし甲斐があるのだ。




アメリカに住み始めて25年目になるが、故国日本の生活と文化に郷愁の心を深く持ち続けている自分は、異国人的な旅ごころが抜けていない。それがこちらで写真を撮る段に自分の感性を高める力にもなっているのか、何を見ても溢れ出る叙情的感情が心を満たしてくれる。いい写真が撮れなかったとしても、カメラを持つことで目が枠の中にセットしてくれる世界を楽しむことが出来るのは本当に幸せだ。

さて、今年も人生とうまく折り合いをつけながら、優雅な気持ちで一年を過ごしたいと思っている。

Scott Tsumura

アメリカ合衆国ワシントン州ベルビュー市在住。71歳。
Tozai Inc. エグゼクティブプロデューサー。

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