写真でいう「スナップショット」は、人物などの被写体を自然な姿のまま一瞬のうちに撮る行為を言うが、事前に写すことを知らせて念入りに撮影する「ポートレート」と二分される。日本では近頃ストリートスナップといって、街を歩く一般の人々の流行ファッションを許可をもらって写し、それを雑誌に載せるなどして人気を博しているが、この「スナップ」はポートレートに近い撮影スタイルだろう。スナップショットと同じような言葉で「キャンディッドフォト」があるが、こちらは相手に覚られずに撮るという意味合いが強く、意訳すれば「隠し撮り」とか「盗み撮り」になる。確かに相手が知らない内に撮ってしまうのだからそういうことなのだろうけど、何か反社会的な響きがする言葉なのでこの日本語訳はあまり好きではない。例えば「忍者撮り」とか「内緒撮り」、、、いやこれも少々野暮ったいのでやはり「スナップショット」と称すればいいかな。自分は右手でカメラを縦にぶら下げて撮ったり、脇腹ショットや1脚を使ったスナップショットが多く、ノーファインダーで相手が気付かない内にその人物の表情、動作や雰囲気などを撮るのが好きだ。ポーズを作るより魅力的で美しく、内面が素直に現れている姿がそこにあると思う。有りのままを写せるタイミングの余裕があればファインダーを覗き、正確にフォーカスして写すこともする。

人々が集まる街撮りは楽しい。人の営みのいろいろな風景を写真にしたいのだ。無言で歩く人、誰かを待つ人、友達と話したり仕事の合間に一服したりと、そんな人々の流れの一端を見て歩きながら写すのが好きだ。そして自然な光景から親近感のある生活の匂いがしてくるような絵を描写したいと思っている。


街角で飼い主が帰るのをじっと待つ犬の横をたまたま通り掛かって、お利口ね、えらいね、喉は渇いてないのといかにも愛しげに話しかける女性の姿は、見知らぬ同士が優しい気持ちを交わし合っていて、何とも微笑ましくカメラを向けるのがうれしくなる。写真を撮れなくてもこのような優しい空間を見るのが大好きだ。


店員と買い物客との会話は、単に売り買いの関係を超えて互いの人生をとても豊にさせるのではないだろうか。どんな状況でも知らない人と何か一言交わすと連帯感が生まれ、暖かな空気を感じるものだ。努力してこうするのも毎日を楽しくする方法だと思う。そんな瞬間を撮るときはこちらの口元もほころんでいるのだろう。

壁のポスターが面白く、カメラを構えた丁度その時、横の階段から人が走り降りてきたのに気がついたが、そのままシャッターボタンを押した。彼女達は驚いてごめんごめんと去って行った一コマ。これも通常よくある場面だが、なかなか写真として残すチャンスがない一瞬なのでとても気に入っている。

この街では男も女もタトゥーをしている人をよく見かける。又それを見る人も抵抗感は特にない。例えば銀行員、学校の教師、警官なども堂々とタトゥーをしているのは日本では考えられない文化の違いだろう。願いを込めてしたり、オシャレだったり、いろいろな理由はあるのだろうが、タトゥーを見せている人が多い。その人の思いが込められている面白い絵柄を見るのは楽しいものだ。

女性は花柄が多く、首、肩、腕、足首など見える所にしている。男性はさすがに花は少なくドラゴンやファンタジーストーリーに出てくる人物がしているような不思議な紋様を描いているのをよく見る。そして男女とも漢字が人気のようだが、「五里霧中」や「畜生」などと意味が分かってないのではないかと思える言葉を見かける時もある。「愛」や「福」は女性に多い。

これはいいと感心したのは、彼女の右手の甲のタトゥーと服のデザインがとてもマッチしていることだ。左腕にも同じような絵柄があったが、最近はタトゥーもトータルファッションを担っているんだと感心した。実は今、両頬から首にかけてこんな紋様をやってみたい誘惑に駆られている。一週間ほど行方不明になって、みんなの前に現れたときの劇的効果が見てみたい。

憂い顔の女性を見ると特に撮りたくなる。何かドラマを感じさせるのだ。それは単なる恋愛ものではなく、もっと複雑なストーリーが何層にも重なって、少しミステリー調でもある。彼女がその渦の中心にいて次々と新しい展開があってダメになりそうでも、そのぎりぎりの刹那に不死鳥のように立ち直るのだ。はらはらさせられて、やっぱり最後はハッピーエンドでほっとできるようなのがいい。あ、平凡かな。

こんな情景は特に気をつかって邪魔しないよう注意をする。じゃあカメラなんか向けずにそっとしておけばいいのに、という声が内から聞こえてくるが、こういう風景は写真にしたいという思いが強く、別の方向を数枚写し、最適な絞りやシャッター速度などを確認し気づかれないよう一発必中で素早く撮る。画面左の夕日が落ちる直前のゆるっとした空気の中で、こうして家族で何をするでもなく時を楽しんでいる様は見ているだけでこちらも穏やかな気分になり、そんなシーンを残しておきたいのだ。

Scott Tsumura

アメリカ合衆国ワシントン州ベルビュー市在住。69歳。
Tozai Inc. エグゼクティブプロデューサー。

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