シアトルは雨期が10月に始まり4月まではレイニーシーズンで、平均年間降雨日数は約150日だから東京の3倍はあるだろうか。ただ細い雨なので降雨量は東京の2/3ほどで大降りになることは少ない。7月から9月は日照時間が長く夏至には午前5時ごろから午後10時くらいまで明るい。

今は朝日の輝きも日に日に増し、その光線はすべてのものを万華鏡で見るような楽しい絵にしてくれている。そして眠りから覚めた体は完全にリセットされ、新たな一日に心地よく立つ準備ができるのだ。



冬の間十分に水分を与えられた草木が4月から一斉に芽吹き5月、6月には大地が新緑で埋まる。 気温が高くなってくるとこの辺りは青い香りのカクテルで満たされ、そのエッセンスが心の隅々まで沁みわたる。



そして気温も高くなってきた今(といっても夏の平均で24℃)、このキラキラと光輝く季節を浴びにやはりその燦然たる場所に行きたくなるのだ。



少し東へ走り草原の丘を上がると野生の花々が一斉に咲き乱れている。自分たちの好きな時に好きな間だけ咲き、種を飛ばして来年はもう少し広がり、こうして何年か何十年先にはこの丘もすき間なく黄色や紫色で覆われるのだろう。

広く開けた農場はもうひと月もすれば青々とした芝の収穫で忙しくなる時期だ。先ほどまで晴れていたが雨がぽつんぽつんと降ってきた。まだ本格的な夏は来てないのか天候の変化も激しい。芝の芽はこれで更にひと伸びできそうだと喜んでいるようだ。そして間もなく、さーーーさっさーーと風まじりの壮大なシャワーがこの芝野を覆い尽くした。

シアトルからワシントン湖の対岸にあるベルビューのダウンタウンを見ると、よくこのような雲に出会う。長く筋目が入りその間にふわっとした雲が挟まっていて、あんな所へすっぽりとはまり込んだら気持ちよく眠れるだろうな、なんて考えてしまう。今日の湖面は風が強く吹いていて波が荒く、のんびりと航行しているヨットも見ることはなかった。

街の周辺には自生する米杉やはこやなぎと共にポプラが至る所で並木になっていて、森や草原を流れている小さな川がノースウエストらしい景観を見せている。木々に遮られた静けさの中にいると、世間のしがらみを忘れ気持ちも安らいで呼吸が深くなっているのに気がつく。

仕事からの帰り道に頭をパーソナルな時間に切り替えるのにここへ寄ることが多い。サマミッシュ湖を渡る風が涼を運んで くれ、既に傾いた日向に出ても暑さを感じることはない。この湖畔の気配に包まれ漫 然と時をすごしていると、普段は思い出すこともない物事が次々と浮かんできては消えてゆく。

夕方になると、ウォータータクシーやフェリーがダウンタウンから家路に急ぐ人々を湾の向こうのウエストシアトルや点在する島々へ送っていく。今日も一日の終わりの、いつもの風景がここにある。

Scott Tsumura

アメリカ合衆国ワシントン州ベルビュー市在住。69歳。
Tozai Inc. エグゼクティブプロデューサー。

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