Leica M9-P, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura
The Wind from Seattle Vol.39

シアトルのダウンタウンにある古い住宅街を歩いてみた。家並みは木造かレンガ造りで、いかにも昔の風情がある雰囲気だ。部分的に薄く雲がかかっていたからか、とても和かな日が差す静かな通りだった。この日は初秋の気温で、早歩きすると少し汗ばむ感じでジャケットはいらないくらいだ。

Leica M9-P, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

木の種類によってはもうすっかり黄色くなって、風がすーっと通ると細かな枯れ葉がぱらぱらと落ち、道路に黄茶色の絨毯を敷き始めていた。その下に立って、たまに木の葉が自分の回りを舞っていく様を見ながら、いよいよ秋が来たなとその気配を楽しんだ。

Leica M9-P, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

家の軒先にはハロウィーンのカボチャが置いてある。ああもう月末近いんだなあと、時が過ぎるのに追いつかない自分の気持にあせるが、いやまだまだクリスマスや正月のことなど考えまいぞと心に念を押しながら歩いた。

Leica M Monochrom, Thambar 90mm f2.2, Photo by Scott Tsumura


Leica M Monochrom, Thambar 90mm f2.2, Photo by Scott Tsumura

ご婦人が後ろから軽快な足音を響かせて、まだ深まらない秋の季節で暑くなったのか、上着を脱ぎながら「ハロー」と追い越していった。2枚目はすこし絞り込んだかな。これ、もう一枚入ればポンポンポンと井之頭五郎さんのシアトル版になったね。きっと昼時だから「腹が減った、飯にしよう」なんてつぶやいているかも。知ってますよ、『孤独のグルメ』くらい。私ねえ日本通なんです。

Leica M9-P, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

静かなスポーツバーだ。飲める方ではないけどアルコールは好きだし、たまには感性をくすぐってくれるこんな場所で過ごしたくなる。友人と取りとめのないことを話し合いながらのんびりと時間をつぶすのもいい。一人の時は、ほろ酔い気分で過去ブログに載せた写真をタブレットで見返して、原画からどんな補正をしたんだろうなどと思い出したりする。そして今回はそれを書いてみようってことになった。

Leica M8, SUMMILUX 50mm f1.4, Photo by Scott Tsumura


Leica M8, SUMMILUX 50mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

既に発表した4点の写真で、自分がしている典型的なレタッチを紹介したい。現在使っている現像/編集ソフトはLightroomとPhotoshop Elementsだ。素早く撮る人物スナップは、付けているレンズや状況によるが、大抵の場合被写体と自分のポジションニングがよくない。そんな時はカメラが現像するJPGでなく、RAWデータから構図を整え、必要であれば描写の明暗、コントラスト、色調その他も補正する。そうすることによって、自分が撮影を思い立ったイメージを再現できるのだ。主題以外の余分なものを後で切り取るつもりで撮った。といっても3:2の画面サイズは守りたいので、そのことを考えてのフレーミングだ。

Leica M9-P, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura


Leica M9-P, SUMMILUX 35mm f1.4, Photo by Scott Tsumura

彼女の暖かな微笑みが店内を明るくしていた。しかし撮影時の設定が適切でなかったのか、画像が暗く冷たくなってしまった。そのままでは撮りたかった世界が異なるので、色相や明るさを調整し、更にズームアップした。広角レンズで人物を大きく撮ろうと近づき過ぎると相手が緊張するので、自然さを保つためにはあえて距離をとり、必要であればトリミングすることにしている。

Leica M8, ELMARIT 28mm f2.8, Photo by Scott Tsumura


Leica M8, ELMARIT 28mm f2.8, Photo by Scott Tsumura

茜色に染まり始めた曇り空が、沈みすぎない静けさを美しく演出していた。そこに足を止めると、そこはかとなく迫る感傷の情にひたるにいい時間がゆっくりと過ぎていった。オリジナル画像は自分を感動させたこの茜色の効果が表れていなかったので、色温度などを調整して自分の記憶にある雰囲気を再現した。カメラを向けシャッターボタンを押すのは心を動かされる何かがあったからで、レンズ、センサーの性質や撮影設定などによって写真にそれが表現されていなければ補正して自分の思いに近づける。

EPSON R-D1s, Voigtlander Ultra-Wide Heliar 12mm f5.6, Photo by Scott Tsumura


EPSON R-D1s, Voigtlander Ultra-Wide Heliar 12mm f5.6, Photo by Scott Tsumura

この二枚のどちらを選ぶか今でも迷っている。慈しむ3組にしばし見入っていた。たまたま広角レンズを付けていたので、自分の立ち位置のままシャッターチャンスをのがすことはなかった。明るくして傾きを直し、周囲を切り取った二枚目は構図も安定しているし、表現の意図もはっきりする。しかし何となく画面が詰まって窮屈に感じ、平面的なのが気になる。原画は臨場感や奥行もあるし、明暗の調整のみでこちらの方に軍配が上がるかなあ。

とまあこのように絵を整えている。いいなあと思わせたその情景から受けた自分の頭に残るイメージを、できるだけ忠実に描写できている写真になってこそ、「撮る」意味があるのだ。カメラのセンサーがしっかりとデータを記録してくれているから、それは初歩的なレタッチで充分用は足りる。さて余談だけど、R-D1sもM8も本当にいいカメラだなあと再認識、また使い直してみようかって思った。

( 2014.10.24 )







Scott Tsumura
アメリカ合衆国ワシントン州ベルビュー市在住。72歳。
Tozai Inc. エグゼクティブプロデューサー。
>> スコット津村 - Wikipedia

このページの上部へ