白黒写真しか撮影できないデジタルカメラと聞いて、人はどう思うだろうか。多くの人にはその価値や意味が理解しがたいだろうし、白黒にアートを感じる方なら単純に「面白いね」と思うかもしれない（値段を聞く前までは）。技術的なことに頭が働く人なら、このカメラが生み出す写真に大きな関心を寄せつつ、この挑戦的な製品が実際にリリースされたこと自体驚かずにはいられないはずだ。はたしてこんなものが売れるのか、自分なら買うかどうか。

このカメラに興味のある方ならご存知の通り、ライカMモノクロームは白黒写真の時代への憧憬や郷愁といったつまらない理由から生まれたカメラではない。得られる恩恵を明確に理解したうえで、潔くカラーを捨てるという決断を下した「意欲的な」存在である。

カラーを捨て去るということは、まずベイヤー配列に基づく補間演算が不要になることを意味する。CCD撮像素子ひとつが1ピクセルに対応し、真の意味で画素数相応のシャープな画を生み出すことが可能になる。センサーに張り付いたカラーフィルターも要らないのだから、それは更に一枚ヴェールを剥がせるということ。その分ベース感度はISO320と若干高くなるが、ローパスレスの画に慣れている人ならその効果は想像に難くないだろう。

1画素が1ピクセルに対応する。Mモノクロームのセンサーは目の前の光景をこのうえなく素直に、緻密に描き出す力を持っている。右の画像は上の画像の100%クロップだが、見するとわからないネットの1本1本までもが忠実に写し出されていることがわかる。これだけ写るセンサーなのだから、レンズの力が試されるボディと言っても過言ではない。今までM8やM9で楽しんでいたオールドレンズの数々が、少し物足りなく感じてしまうこともあるかもしれない。

誤解しないで欲しいのは、Mモノクロームが気難しいカメラというわけではないことだ。ただレンズの力をストレートに伝えるボディであるだけに、よいレンズを使ったときの結果が凄まじいということに過ぎない。そして、一度それを見てしまうと、それに耐えうるレンズを求めてしまう、ということである。現行レンズの優れた描写性能を、改めて教えてくれるカメラだと言えるだろう。

とはいえ解像力は魅力のひとつに過ぎない。その豊かなトーンこそ、Mモノクロームで写真を写したときにもっとも心揺さぶられるポイントだろう。目で見た光景と、実際に写ったもの。本来的な意味においては撮影者でなければ感じられないことなのだが、いつものようにシャッターを背面モニタでプレビューしたとき、その写りに覚える感動はまさに「息を呑む」といった表現が相応しい。粒状感なく、なだらかな階調によって描かれるモノクロームの世界。フイルムの選択から撮影時の露出選択・現像の温度・撹拌のやりかた・プリントまで、銀塩の時代に白黒写真を楽しむ人々が様々に追究してようやく得られた上質な画がここにある。

フランジバックの短いライカMマウントであればこそ、コンパクトで優秀なレンズが数多く存在している。超広角レンズでも色被りの心配は必要ないし、カラーフィルムのなかった時代のオールドレンズも本来のパフォーマンスを発揮してくれるだろう。M9に比べると高感度特性は非常に高いから、開放値の控えめなレンズでも困ることはない。カラーを捨てるという選択がもたらしてくれたものは、使ってみると想像以上に大きい。