デジタルカメラが従来のフイルムでの撮影プロセスと大きく違うポイントは、後処理が自分で行えてしまうこと。その過程でモノクロ化も行えてしまいます。LEICA M MONOCHROMは言うまでもなくモノクローム専用機。一般的なデジタルカメラでの撮影になれきってしまっていて、ロケ中に「そうだそうだ、色は写らないんだった・・・」とレンズを向けながら鞄にしまってしまうこともあり、思わず一人笑ってしまいました。カラーフィルタが載り、デモザイク処理が行われる一般的なセンサーが記録した画と、それらの作業が一切不要であり、1画素がそのまま出力画像の1PXとして結像するLEICA M MONOCHROMの画の違いを見れば、やはりかなりの差を感じます。それは解像力、そして線の素直さ、ダイナミックレンジ、階調と、画作りの全般に及ぶ印象です。

しかし、一般的なデジタルカメラが作り出す画をモノクロ化したものと強烈な違いがあるかと言えば、人それぞれの感じ方があり、まして明確な目的が絡んでくると、その感じ方も違ってきますので、正直「強烈に違う」なんて書けません。ただ、ひとつハッキリしているのは、デジタル撮影でモノクロ表現を行ってきた皆さんの中で、「カラーフィルターを取っ払い、シンプルにモノクロ画像だけ叩き出してくれるカメラを作ってくれないものか」なんて考えていた人には迷わずおすすめできるカメラです。というよりも、こちらが何も言わずとも迷わずお買い求めなのだろうと思います。ちょうど、一眼のフラッグシップあたりと似たような価格帯です。このカメラがフラッグシップに相当する方へ、ご参考にして頂ければと、気張らず、いつもの感じで、函館までぶらっと持ちだしてみました。ごゆっくりご覧ください。

( 写真・文 / K )

到着は日没後、天候は雨。日本全国どこも雨で晴れているのは沖縄だけ。それなら雨が似合いそうな街を・・・と函館に。手持ちのレンズはAPO-SUMMICRON-M 50/2 ASPH.と、現行型のSUMMILUX-M 35/1.4 ASPH.の2本だけ。実は個人的に興味があったのは高感度特性。線の繊細さ、緻密さ、そして階調についてはある程度想像がつきますし、一度短い時間でしたがテストを行いましたので、その能力の高さについては確認済み。しかし、昼間の撮影でしたので、高感度特性については今回が初めてのテストとなります。ベース感度がISO320になっているとおり、カラーフィルタを搭載していないM MONOCHROMでは、物理的に感度面で有利になります。また、ダイナミックレンジにも影響を与えるでしょう。さらにデモザイク処理がありませんから、ノイズリダクションの処理自体もシンプルになりそうなもの。階調特性のよさを活かしてシャドーをドンと沈ませて(黒を締めて)、さらに高感度に設定してノイズが載ってくれば、フイルムの粒子が荒れるような、そんな雰囲気にならないものだろうか。結果は予想通りでした。

ISO6400で撮影。かなりの低照度下での撮影です。さすがにノイズは載ってきますが、35mmフイルムのISO800〜1600程度で、解像感はM MONOCHROMのほうが格段によい印象です。ノイズが載ってもイヤな印象はありません。大変シャープで線が太ったりすることもありませんし、コントラストもかなり高く、さらに後処理でもかなり追い込める余力すらあります。ノイズリダクションで解像感が目減りしたり、階調がフラットに寝てしまうといったことがありません。センサー自体がシンプルな構造な分、やはり高感度特性のよさに繋がっていると感じます。しかしこのノイズ感は個人的に気に入りました。カラー画像をモノクロ化して、リアリティを出すのにわざわざノイズを載せたりしていましたが、むしろ高感度にセットして、めいっぱい絞り込んで撮影したら面白いんじゃないかと感じるぐらいです。


こちらはISO800。このサイズだとあまり目立ちませんが、ある程度は載ってきます。同じ道内であれば小樽、本州であれば横浜のように、函館にもベイエリアには赤レンガ倉庫が。そのレンガ一つ一つをしっかり解像し、対岸から照らし出された光が闇の中へぼんやりと拡がる様がよく再現されています。M8/M9/M9-Pもローパスレスでシャープなのですが、M MONOCHROMはさらにシャープ。そして素直な線を描きます。


窓越しにレストランのテーブルを。ガラスにレンズをぴったりつけて撮影。その様は職務質問されそうな・・・。
ベース感度で撮影すると、まるでコピーフイルムで撮影したかのような緻密さです。そのうち、こんな例えもわかる人が減っていくのでしょうね。しかしこの50mmはとにかくよく写ります。ライカ社が採算度外視で作り上げたと聞きましたが、ちょっと気持ち悪いぐらい写ります。ボケ味も美しい!


モノクロフイルムでの撮影で、最終出力がスリーブでありPCでのスキャニング→モニター表示でも、プリントでも同じことが言えますが、一般的なネガフイルムのイメージとは違って、露出に関してはシビアさが求められます。モノクロフイルムでの撮影経験がある方は「うんうん」と頷かれる方も多いのではないかと思いますが、最高のトーンが出るのはピンポイントですよね。特にスキャニングの場合、露出ミスのカットを、もうどのようにトーンをコントロールしてよいかわからないといった経験はありませんか? 実は今回お貸し出しいただいたM MONOCHROMでは、DNG&JPGで撮影可能となっていました(前回はJPGオンリー)。そこでDNGの現像を試みてみたのですが、筆者が日頃愛用しているCapture One ProではM MONOCHROMのDNGファイルを認識してくれませんでした。発売前なので当然なのですが。しかしAdobe Lightroomでは認識してくれたので、早速現像処理を行ってみたところ、まるで冒頭のフイルムのように露出に対してシビアな印象です。ダイナミックレンジが狭いということではなく、ダイナミックレンジ内で最も美味しいトーンが出るように撮影現場でキッチリと露出決定しないと、後処理に頼るのはなかなか難しい印象です。もちろん、飛んだハイライト部分を救済したり(程度によりますが)潰れたシャドーを引き出したりすることはできます。ただ、モノクロフイルム撮影でドンピシャ!とハマったときのような只ならぬ美しいトーンを、後処理で作るという考えは捨て去った方がよいといった印象です。もちろん、発売前でファイルをイレギュラーに現像しているわけで、製品リリース後どうなるかはわかりませんし、こちらでお伝えしていることは「話半分程度」に捉えて頂きたいのですが、ローパスやカラーフィルタ、そしてデモザイク処理などが無いM MONOCHROMは、ある種「曖昧さ」が介在しないのです。それはつまり、シビアに撮影を詰めていけばモノクロフイルムで最高のプロセスを踏んだかのような美しい画を叩き出してくれるわけですが、曖昧さが無い分だけ、ルーズさがそのまま画にあらわれてしまうのではないかと推察するのです。このあたり、なんだか面白いなと個人的に感じます。つい数年前までモノクロポジフィルムというものが存在していましたが、そこまでのシビアさはありません。しかし、少なくともネガフィルムでも単体露出計を持つ、そんな姿勢で撮影に望めば、M MONOCHROMは最高の画を叩き出してくれる、そんな印象です。くれぐれも・・・「ポテンシャルを引き出したければナーバスに」ということです。

ペイントされた瓦の風合いが見事。長年風雨に曝されてマットなペイントも実にリアル。ガラスの写り込みも素晴らしい。極端にオーバー/アンダーと3カット露出をバラして撮影してみましたが、上のカットのようなトーンには後処理で追い込めませんでした。もちろん及第点以上の仕上がりなのですが、適正露出のカットが素晴らしく美しいのです。ポテンシャルが素晴らしく高い次元にあるが故に、撮影はシビアに行いたいところ。 むしろルーズに撮影するのであれば、M9-Pで撮影して後処理でモノクロ変換でもよいかもしれませんね。これでも十分なクオリティなのですから。それ以上を望むか否か、ということだと思います。

「厚みのあるネガ」というのがありますが、まさにそんな印象。コントラストは高く、しかしトーンが犠牲になるわけではないのです。実に美しい再現。余談ですが、現行型のSUMMILUX 35mmの素晴らしさもあると感じます。このレンズは開放で撮影すると独特の雰囲気を醸し出します。

前日までの雨は上がり、空には一面厚い雲が。自家現像でネガがグレーに染まってきたら「夏だなあ」とよく感じたものですが、そんな雰囲気がよく写り込んでいます。しかし猛烈にシャープで緻密。山の木々の葉までビッシリと解像します。レンズの能力もあってこそでしょうけれど、曖昧さの介在しないこの感じの描写は、1画素がそのまま1pxとして結像するこのカメラならではでしょう。

久しぶりにライカを持って撮影にでかけました。ライカのよいところは、とにかくコンパクトなところ。レンズ2本にボディ1台なんて、他の荷物にまぎれてるようなもの。こんなに開放的で気軽なことはありません。函館の街を長時間練り歩きましたが、手のひらに収まるようなサイズのライカはやっぱりよいですね。首からさげて「歩くこと」がメインになります。だから必然的にシャッターの数も多くなります。1日で撮影したカット数は520。大半が何が写ってるやらよくわからないカットですが、まあそれでもよいのです。どんなカメラシステムでも基本は同じですが、ライカは撮るというよりは「視る」。厳密にはフレーム出来ないブライトフレーム、パララックス、距離計の構造上寄れなかったりと。あんまり突っ込まず、のめり込まず、よい意味で"撮影"から離れられます。ポテンシャルはド級ですが、それに気圧されない取っつき易さはM型なんですよね。

ハーイ並んで並んで。函館の「鮨政」さんで。かなり酔いも回って微妙に後ピン。いまさら書くまでもありませんが、被写体の人達に威圧感を与えないということがライカのよいところの一つ。M8でシャッター最高速が1/8000だったのに、M8.2では1/4000に。現行のM9-Pも、M MONOCHROMも同じく1/4000。スペックダウンしてまでシャッターの静音化に注力するという、このカメラの本質はこのあたりにあるのでしょうね。あ、そうそう。よくカラー画像をモノクロ化すると、タングステン光の場合、人の手や肌が妙に美白?になってしまうことがありますが(白っぽい抜けた再現に)、M MONOCHROMはそんなことはありません。

函館は同じ港町の神戸や長崎によく似た雰囲気を持ちます。路面電車が走り、街の至る所に坂があり、明治や大正の面影を感じさせる建物があり、街の中心部から少し頑張って歩けばひなびた漁港がありと、写真を撮っていてとにかく飽きない街です。漁業でも大変栄えた街ですが、昨今は若者の流出も多く、少し寂しげ。しかし実に落ち着いた街で、ご興味のある方はM型を持ってぜひ。きっとよい旅になると思います。潮流の影響でしょうか、7月あたりはかなり靄がかかったり。有名な函館山からの夜景を見たければ、春秋冬あたりがおすすめかもしれませんね。そうそう、魚介類の美味しさは・・・となんだか当たり前のガイドブックみたいなのでここらで。。。でも本当に撮っていて面白い街です。

教会が多いのも、神戸や長崎と同じ。このカットの撮影中、何カットも撮影していたものでシスターの方が声をかけてこられました。教徒さんですか?(広い意味での)と聞かれて「すみません実家は浄土真宗です」と応えたら、にっこりと。・・・ドンと空を飛ばして極端にハイキーに振っても、像の部分は美しいトーンで再現されました。

函館と言えば朝市。能登・輪島の朝市なみに「お兄さんちょっとちょっと」と声をそこら中からかけられます。売ってるおじさんおばさん達が実にいい。どうしたらあんなに素敵な年輪を刻めるだろうかと思ってしまいます。

なんだか最後は絵日記みたいな調子となってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。フイルム代+現像代(現像の手間と薬剤費?)で何本分だろう??なんて換算をしている方も結構いるのではないかと思います。一言でいえば、冒頭に記したとおり、モノクロに最適化されたセンサーを搭載したカメラが欲しい人におすすめしたいカメラです。・・・ブラッククロームフィニッシュで何の装飾も無いボディは実に精悍でストイック。恐らくいろんなメディアに引っ張りだこで、既にブラッククロームらしくエッジが鈍色になってきています。レンズ1本にM MONOCHROM1台、徹底的に使い込み、禁欲的にモノクロにのめり込む。それもなかなか楽しいんじゃないかと今回撮影していて感じたのでした。








Loading..
Loading..

価格:Loading..(税込)
Loading..Loading..
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..

Loading..
Loading..

価格:Loading..(税込)
Loading..Loading..
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..

ヘッドライン一覧へ

このページの上部へ