Scottさんのライカ歴は、奥様の叔父様の遺品としてブラッククロームのライカM5を譲り受けたことから始まる。少し無骨で、何より使い込まれてエッジが鈍色に光るボディにひかれたそうだ。そして、ライカが持つ精密さ、手触り、重みと、写真のワルサーと重なったそうだ。なるほど、いかにもScottさんらしい。銃に慣れ親しんでいない私がその理由を聞いても、なんとなく納得できてしまう。ライカのあの出で立ち、手触り、精密感。手にした瞬間にやられてしまった人はたくさんいるだろう。

元々フイルムで撮影していたそうだが、時代の流れで徐々に現像所が一つ、また一つと閉じていき、EPSON R-D1sを使うように。Scottさんが来日された際に「ライカM9はどうですか?」と尋ねられた。私は、「フルサイズに拘る必要がなければ、M8はかなりいいですよ」と、私のM8を好きなだけ使ってみてくださいと無理矢理手渡した。後日、ScottさんはM8を手に入れられて、現在に至る。ローパスレスのレゾリューション、ライカ独特の渋い色再現が気に入られたそうだ。

Scottさんは生粋のスナップシューターである。ライカは撮影に必要最小限かつ十分な機能が盛り込まれ、非常にコンパクトなカメラシステムであるところが気に入ってるそうだ。ストリートが主戦場で、人々を自然な雰囲気でフレームするために、1脚にクイックシューをつけたM8を載せ、ノーファインダーで撮ることが多い。もちろん、通常の撮影の際に、手ぶれを抑制するためにも役立つ。クイックシューを利用する理由は、縦位置でフレームする際にさっと移行できるように。1脚は色々なものを試してマンフロット社製のものに落ち着いたそうだ。この1脚は、脚を一気に伸ばせて、さらに伸ばしたと同時にロックがかかるのが美点。Scottさん一押しの1脚である。

お気に入りのレンズは、SUMMILUX 35mm(1st)と、ELMARIT 28mm(1st)の2本。色々とお持ちではあるが、この2本をマウントすることが圧倒的に多いそうだ。これは、Scottさんが135換算で35mm付近が持つ画角を好むことにも起因する。いずれも銘玉だ。かなり使い込まれたレンズだが、2本とも良好なコンディション。

かなりモノがお好きで、数多くのレンズ・カメラをお持ちであるが、とことん実践派。手に入れられたモノの特性を踏まえて活用し、使い込まれてる印象だ。Scottさんの奥に写るのはTozai Inc.の社長、Sheila Boughtenさん。Scottさんの長年のパートナーだ。

Scott Tsumura さん

アメリカ合衆国ワシントン州ベルビュー市在住。69歳。
Tozai Inc. エグゼクティブプロデューサー。

-取材後記-

前々から「一度シアトルまで遊びに行きます」と言いながら、いきなりの取材要請、そしてご自宅まで押しかけるという、とんだ初訪問にもかかわらず、嫌なお顔一つされず、ほぼ一週間びっちりとシアトルを案内していただき恐縮しきり。「レンジファインダーな人達」というタイトルの通り、もう少しカメラやレンズ、写真に対してフォーカスするつもりだったが、どう考えてもScottさんというお人にスポットを当てた方が面白い。というわけで、記念すべき第1回目でいきなり脱線してしまった。

・・・とはいえ、"らしい"締めを。

レンジファインダー使い、特にライカ使いとして見たScottさんで印象深いのは、手に持たれているカメラそしてレンズが、「必然の選択」として収まっているところだ。勿論、好みの描写であったり、モノ的な興味からという理由もあるだろうが、機材に対する思い入れみたいなものとはある種無縁である。あくまで実践で使いこなす、そんなレンジファインダーそしてライカの使い手である。実に恰好佳い。

Scottさんはお仕事の方も精力的にご活躍中だ。Tozai Inc.は業務拡大と更なる飛躍を目論んで、日本法人も近く設立予定。これからも第一線で現役、優雅に日々を過ごすおつもりなど無いようだ。心は走り始めた頃のまま。それが率直な印象である。

>> Scottさんblog " shot & shot "
>> Tozai Inc. オフィシャルサイト

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