“写真集を創る” レポート TOP

「世界を見定める」行程
できあがりの姿を実感し、写真集に宿る世界を見定める行程

さて、ここからは編集者とデザイナーがタッグを組み「ともかく形にしてみる」行程です。著者が写真集制作の経験が豊富にあれば、いきなり作り込むことも考えられます。まずは詰めが甘くとも形にして、写真集の姿が見えてくることが大事。そんな訳の「試作」です。ここから磨き上げていくための行程です。世界を見定めるとは大袈裟に聞こえるかもしれませんが、人は頭で考えるだけではなく、手を動かして力を注いでこそ見えてくるものがあると思うのです。その「試作」を見て、そこにどんな世界が宿るのかを見定めます。

⑥レビュー&ブレスト

Scott氏が作成したラフレイアウトを元に、様々な意見交換をします。著者がいかに読み手のことを思い浮かべて作業をしたとしても、編集者は間違いなく物理的にも他人であり、その意見を率直に投げかけます。ここで大事なポイントは、著者と編集者のあからさまな立場の違いです。編集者は著者の想いを受け止め、写真集にそれをできる限り投影することも大事なのですが、読み手にいかに伝えられるかを考えます。混乱を招くような体裁は、それをほどく必要があり、難解であれば難解である意義を考え・問い、スムーズに伝わることのほうが望ましければ、その方法論を考え打ち立てます。この行程のポイントは、できるかぎり言葉を尽くして著者と会話することです。

⑦編集基本方針の設定

一冊の本とするならば、ストーリーができるかぎり淀みなく流れ、読み手に無用な混乱を招かないトーン&マナーを念頭におくことになります。たとえば、今回の写真集はカラーやモノクロームのカットが混在する内容であり、台割り(ページの割り振り)も混乱を招かないように配慮する必要がありました。台割りの関係上、カットをあらたにセレクトして差し込んだり、削ったりする必要も出てきます。また、伝えたい内容の”芯”を考えれば、もう少し他のカットが差し込めないか、逆にカットを削ったり。今回編集を担当したスタッフも1人の撮り手。心の痛いお願いも多々でてきますが、編集者という立ち位置で職務を全うします。こうして、完成に至るまでの天から伸びる”ツル”を少しずつ手繰り寄せていきます。

⑧仮デザイン

内容のコンセンサスが著者と編集者の間で取れて、台割りが確定すれば、デザイナーにここでバトンタッチします。著者と編集者が「世界を構成する要素」を一旦作り上げ、それをデザイナーが「具象化・具現化」する。そんなイメージです。装丁や、果ては書棚に並ぶところまでを想定してデザイナーはデザインします。この行程に辿り着くと、ぐっと実感を伴ってきます。そして取り組みの着地点が明確に見えてくるため、そもそもの「想い」という起点を見返すことにも繋がります。

⑨レビュー&ブレスト

できあがった「試作」は、著者が1人で作り上げたラフレイアウトとは違い、他人の手が介在したものです。そして写真集としての仕上がりが見えてくるため、一冊の本として形を伴って見つめることができます。そこで、著者と編集者がもう一度ここで意見交換を行います。実は、この段階では本として体裁を整える基本的な編集だけを行い、できる限り著者の作成したラフレイアウトに沿って「試作」しています。今回の場合、この行程で基本コンセプトとそれに伴った構成内容に大きな変更を受けました。写真集のタイトルを変更したのです。

Stranger から With the Wind にタイトル変更した理由 - 取り組んでみてわかること -

興味のまま、心惹かれるままに、そして流れに逆らわず導かれるままに、様々な仕事に打ち込んできました。そして何時も何処かの誰かとなる。そんな私の経緯から「Stranger」というタイトルとテーマはどうだろうと、編集部の方から提案していただきました。なるほどと思い、周囲に話してみても「面白いんじゃないか」と。そして、それに沿ったセレクトや並びをいろいろと行ってみました。幾度か編集部に投げてみるものの、なかなか首を縦に振ってくれない。編集部から求められているものと、私の持つイメージが食い違っていたという面もあったと思います。そもそも自分の半生をまとめるようなテーマで作り込むなんてことが、おこがましいのではないかという気持ちもありました。そして作業は膠着状態に。写真を選ぶことも並べることも、何をどうすればよいのかわからなくなりました。そんな頃「連載の時の延長で行きましょう」と再び提案をいただきました。写真集を作るなんてことは、私にとって未知なる作業でした。だからこそ構えた面もあります。そして編集部の方も「作るのならば・・」と、やはり構えていただいたことだろうと思います。したがって結果的に、これまで楽しんできた写真の面白さに、シンプルに紐付くようなテーマとタイトルに辿り着くことができました。( Scott氏 )

( 2017.11.22 )




このページの上部へ