Carl Zeiss Distagon T* 1.4/35 ZM の2回目のレポートをお送りします。1回目のレポートをご覧になった方も多いでしょうから、多くは語りません。Leica Mマウント用のZEISSレンズの中でも特によく写る一本。言葉にするとありきたりになってしまいますが、開放からキレキレにシャープな像を結びます。もちろんZEISSの美しいボケでも魅せてくれます。像を結んだ前後のなだらかなボケには見入ってしまうほど。そして距離に関係なく、近接から遠景まで被写体を立体的に表現する様も見事です。ZEISSらしい発色や、ヌケの良さ、高いコントラストながらどこまでも粘り強いトーン等々。。。褒めきれませんし、やはり言葉にすると陳腐になってしまいます。カメラとの解像力の相性なのか条件が悪いと少々暴れん坊な面も秘めていますが、そこがまたこのレンズの面白いところでもあるのです。せっかくのF1.4ですから、全カット解放でお届けします。
( 写真 / 文 : 4beats )
近接での撮影ほど開放でボケを楽しまなければとレンズを向けたものの、Leica M (Typ240)のシャッタースピードの最高速は1/4000秒、ベース感度はISO200。「お天道様に背を向けるような生き方をしてはいけません」と育てられた皆さんには辛いかもしれませんね。せっかくのZEISS × Leicaという組み合わせだからと息巻いて、感度を下げたりフィルターを使ったりということをしないで真正面から挑むとこの通り。もれなく明るい写真が記録されます。撮影者にかかわらず、ちょっぴりメルヘン色が加味されてしまうのです。これでも現像ソフトで多少は救い出している状態ですが、撮影時には配慮が必要となります。とはいえLeicaの現行機種ならEVFが使用可能。露出の確認もできますし、0.7mの最短撮影距離でのフレーミングも大変スムーズ。ありがたい限りです。
こちらも白いシャツが飛び気味です。でもそんなことはどうでもよくなるほどの立体感に魅せられました。背景からスッと浮き立ち、画面の中で動き出さんばかりのリアリティを伴って描かれています。35mmという焦点距離はこういったスナップにはもってこい。ただし、解放で撮ると極薄のピントに翻弄されますのでご注意を。・・・とは言いながら、やっぱり開放で撮ってしまいます。だって、一度でも画を見てしまったら、ねぇ。。。
鎖の付け根から手前に徐々にボケていきますが、とてもなだらか。ボケを楽しめる近距離での撮影がとても楽しくなります。
さて、ここで意地悪な条件でのショット。手前は最短撮影距離よりも近いところまで砂地という高周波な被写体が続いているため、グルグルと全体的に巻いてしまいました。こればかりは恐らくほとんどのレンズがこうなってしまうのではないでしょうか。先ほど「暴れん坊」と言いましたが、ちょっと言い過ぎましたかね。それにしても、ここでもまた人物の立体感のある描写に魅せられてしまいました。
明るいレンズなのでもちろん夜に連れ出すこともアリです。2枚上の二人の女性、拙い英語で声をかけ撮らせてもらいましたが、笑ったり深刻な表情をみせたりと身振り手振りを交えて感情豊かに会話が進んでいきました(話している内容は知る由もありませんよ、もちろん)。暗い中でなるべくブレないようなギリギリのシャッタースピードを選択できたのも開放F1.4だからこそ。
ずば抜けた描写力の向こう側にあるもの。
ただシャープに、ただよく写るだけじゃない。そこにある光を確実に、目で見えている以上にしっかりと捉えてくれる。その場にいないと分からないことが、アリアリと伝わってきて脳内にリアルに再現される。そんな印象のレンズです。。。うーむ。やはり言葉にすればするほど陳腐になってしまいますね。描写力が圧倒的すぎるもので、どうかご容赦を。またデジタルライカとの組み合わせが絶妙に良いのか、本当に撮影が楽しくなります。叩き出される画がこれだけずば抜けていると翻弄されることもしばしばあるのですが、そこも含めて口元が緩んでしまうレンズです。拙い言葉でいろいろと説明してきましたが、実は本当にお伝えしたいのはその先にある「雰囲気」や「空気感」、さらには「感情」といったものにまで届かんとする描写力、そこに秀でているということなのです。いえ、もちろんZEISSレンズに興味をお持ちの方には、そんなこと言わずもがな、当たり前だとお叱りを受けるかもしれません。でも使ってみるとやはり強く実感するのです。使ってみたからこそ改めてお伝えしたいことなのです。日進月歩のデジタルカメラボディですが、何世代ものボディを渡り歩けるレンズだということは疑う余地もありません。間違いなく、手元に置いておくべき一本です。
( 2015.10.01 )