Distagon T* 1.4/35ZMは、まるでBiogon T* 2/35ZMの開放F値をそのまま1.4に大口径化したような印象さえ受けます。レンズ構成自体はまったく別のもので、むしろライカ SUMMILUX-M 1:1.4/35mm ASPH.(Ⅱ型)に近い前群は凹面から始まるレンズ構成です。テストでの印象はともかく「総じて優秀」。開放から繊細かつ極めて尖鋭な像を結び、画面の隅々までその性能が発揮されます。またボケ味も大変滑らかです。Bigon T* 2/35ZMも同様ですが、歪曲収差が殆ど感じられません。ZMシリーズ全般に言えることですが、なにか一つ突出した印象はなく、全てが高次元でまとまっているのです。それは言い換えると「特長がない」とも言えます。ZMシリーズの主なレンズは、今回のようにライカMやM Monochromのような高密度センサーのボディがまだ登場していない頃でした。今回Distagon T* 1.4/35ZMを、この2台のボディでテストしたのですが、ともかく豊饒な階調再現に感心しました。
ページ上から順に[1枚目]は、スポット的にディフューズされた光が差し込み、その光の様が実にリアルかつ美しいグラデーションで再現されています。[2枚目]は、数あるデジタルカメラの中でも最もレンズに要求する性能が高い1台と思われるライカ M Monochromで撮影しましたが、開放にもかかわらず収差を感じさせません。また車の艶めかしい階調再現はもとよりエッジに曖昧さも感じられません。[3枚目]は、ビルに反射した拡散された光の様を忠実に捉える階調再現力と歪曲の少なさを感じます。それでは光が十分に回っていないようなシーンはどうなのだろうと、レンズを[4枚目]のように向けてみました。ビルに反射した光が差し込みはするものの、そう強い光ではありません。間もなく4月になろうかというのに、冬を思わせる寒さ。現場の空気感を上手く再現できています。今回のテストで、ZMシリーズのレンズをもう1度全て再テストしたくなりました。
思えばCarl Zeissというブランドは、過剰なまでのクオリティでユーザの期待に応えてきた歴史があります。あまりに有名なハッセルブラッド用の白鏡銅のCタイプレンズなどは、2500万画素程度のデジタルバックを取り付けても、その画に驚かされるのです。レンズに求められる基準に満たないどころか、レンズの本来の力をまざまざと感じさせられました。Distagon T* 1.4/35 ZMも、たとえばフィルムライカやライカM9あたりまであれば、総じて優秀なレンズとは感じても、この豊饒かつ艶やかな階調再現力までは感じられなかったかもしれません。それは画素数云々というよりも、デジタルカメラの画作りの進化によって感じられる部分も多分にあると思われます。そして、あらためてこのレンズが持つ力に感じ入るのでした。
ライカ SUMMILUX-M 1:1.4/35mm ASPH.(Ⅱ型)と比べてどうなのか、これが気になる方が多いと思います。ズミルックスはともかく目を奪われるかのようなピントを置いたポイントのシャープさ。バックの大きなボケと明瞭に分離するために、余計にそれが際立つのです。しかしバックのボケが荒れることもあります。それも特徴のひとつであり、ハマると面白い効果を画にもたらします。対して、Carl Zeiss Distagon T* 1.4/35ZMは、無慈悲に・・・と言えば大袈裟ですが、いたってクールに眼前の光景を忠実に像として結びます。ズミルックスのような派手さはありませんが、使い込んでみると「ジワジワ」とその力が撮影者のテンションをかさ上げしてくれる、そんな頼りがいを感じます。文章にすると大したことの無いような印象かもしれません。しかしこれは凄いことだと思うのです。ズミルックスとの比較では、どちらのレンズがよいというわけではなく、これはまさに哲学の違いですよね。レンズには確実に応えて欲しい、そう思う方には、この上ない相棒となってくれるでしょう。中段からの作例では、質感を捕まえる力にフォーカスして撮影してみました。いかがでしょうか。少し鏡銅が大きく、もう少しコンパクトであったらと思いますが、実力を考えればこのサイズが必要だったのでしょう。Carl Zeissの力と、ZMシリーズ全般に思いを至らせる、そんな実力を持った1本でした。間違いのない1本だと思います。
( 写真 / 文 : K )
( 2015.03.27 )
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専用フードはレンズ同様、手の込んだ造りのスリットタイプです。フードは遮光のほかレンズ保護にもなりますが、やっぱり見た目も大事。迷わずご一緒にどうぞ。
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高価なレンズ、つまらぬことで傷や汚れをつけてしまうわけにはいけません。レンズ保護用にも使えるUVフィルターで、大切な前玉をしっかり保護しましょう。
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日中、開放を多用するのは難しいですよね。シャッター速度が足りなくなりそうな時にはNDフィルターをどうぞ。
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撮影中つい無くしてしまいがちなリアキャップ。無くすと大変。予備に買っておくと便利です。
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1段暗くなりますが、こちらも大口径の35mmレンズ。DistagonとBiogonそれぞれのレンズ構成が持つ描写の違いにもご注目ください。
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コンパクトなツァイスの35mm。描写は現代レンズの安定した性能にオールドレンズの楽しさ組み合わせた、まさに美味しいとこ取り。なかなか1本には絞れないものです。
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少しクセが欲しければこちら。オールドほどの危うさはなく、程よくクラシカルな写りが楽しめます。ルックスもいいですね。
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こちらもオールドほどの危うさはないものの、結構クセ玉。球面ズミルックスをモチーフにしたと公式?アナウンスがあったほど。その実、写りはよく似ています。
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カミソリの如し。とにかく切れまくる描写。しかし暖色気味で、切れるけれども柔らかさもあるという不思議なレンズ。
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Distagon1.4/35と最も比較されるであろうレンズ。ご存知の通り、どちらか1本ではなくそれぞれを楽しむのが正解です。