Leica Camera AG、Head of Optical Designである、Peter Karbe(ピーター・カルベ)氏に、レンズ設計全般についてインタビューいたしました。

今日はどうぞ宜しくお願いいたします。(rangefinder.yodobashi.comを披露させていただきながら)あの、このWEBサイトはMマウントのつくボディ、Mマウントのレンズ、サードバーティ、オールドレンズ、特に現行は全てのMマウントレンズを、一応全部網羅しています。実際に全て撮影をして、お客さんに見て頂くというこようなコンセプトで最初スタートしたサイトなのですね。

私自身、Mのレンズの互換レンズに非常に興味がありまして。
(以下は、通訳を務めて頂いた方が披露してくれたお話)
カルベ氏はライカの出版物のコレクターで。昔はエイ出版さんが出されていた「ライカ通信」という雑誌が結構好きで。何冊か持ってるけど、ないものがある。僕、全部ネットで買ってあげてたんです(笑)なかにはプレミアがついているのもあって。1冊4000円なんてものも(笑)

あ〜。(笑)

日本の雑誌というのは昔だったら分解した所、レンズの断面図とかの情報量がすごいでんすよね。ドイツで出るどんな出版物より情報が多いのです。

なるほどね〜(笑)いいですね!(何が?)
本日、工場見学の際に非球面レンズの切削工程などを拝見したのですが、その時にご案内頂いた方が、興味深いコメントをされていました。まさか非球面レンズの説明をしてもらうのに、ボケ味を求めるために非球面レンズを用いるなんて説明が出てくるとは思いだにしなかったのですね。それぐらい個人的には非球面レンズに、あまりよい印象を持っていないのです。非球面を使うことによってボケ味がこうちょっと、固くなったりだとか、リングボケ気味だったりとか。非球面レンズをライカ社が用い出したのはかなり昔になると思うのですが。

一番最初です。

そうですよね。手磨きのところから。非球面をどのような使い方をしているのか。このあたりを少し伺いたいのですが。

例えばノクティルックスの話をすると、非球面レンズを2枚搭載しています。その2枚のレンズというのはそれぞれ役割があるのですが、簡単に言えば、開放の様々な収差を補正するために使います。さきほどお見せしたとおり、非球面レンズというものは、簡単なポリッシュだけでは無く、複雑な形状を削っていかないとならないのです。従って、どうしても表面のリップル(波立ち)みたいなものができやすいですよね。そのリップルが強いと、どうしてもボケ味としては固いボケになったり、二線ボケなどが出てしまう。だからライカは、表面の大きな非球面の形状とその平滑路に、そこに非常にこだわって作っています。それが結論、いいボケに繋がるのです。 例えば、日本でボケというと、どうしてもクラシックレンズのボケがいいな〜という話がありますよね。35ミリのF1.4(球面ズミルックス)など。いいボケだよねと。オールドレンズのボケというと、どちらかといえば、球面収差がちゃんと除去できていないのです。そんな光学的な問題をちゃんと収束できていないものが「ボケ」という表現に繋がって。それを味という言い方をしていますよね。非球面を使うことによって、色んな収差というのを出来るだけ完璧に押さえ込むと、シャープな所はシャープに、ボケた所は完全にボケるといった、理想的なレンズができるのです。そのように考えて、今、非球面レンズというものを使っています。

なるほど。たとえばエルマリート28mm F2.8は、現行型が非球面化されて出たと思いますが、その前のレンズが大変素晴らしいレンズだっと思うのですね。これをなぜ非球面化する必要があるのかなと。・・・なんて、感じるくらいだったのですね。現行品になってから、ものすごくきょうつつ(鏡筒)がコンパクトになりました。コンパクト化の為に非球面を用いるということも、やはりあるのでしょうか。

小型化をする為に、非球面を使うことはありますね。確か7、8年前でしょうか。28mm F2のレンズがありますけど、それは古い28mm F2.8と同じサイズなのです。どちらも同じような光学的なコンセプトなのですが、非球面を使うことによって1段明るくすることが出来る。それがポイントですね。

ちょっと脱線した質問になりますけど、カールツァイスのブランドで出ているMマウントのレンズは、非球面が入っていないレンズばっかりですよね。あのラインナップをご覧になって、どのように感じられますか?

ライカというのは、伝統的にいかに高性能な小さいレンズを作るかということにフォーカスしてきました。そんな意味で非球面などにチャレンジするのが早かったですよね。そういう基本的なカルチャーの違いだと捉えています。またライカは、硝材などについても、昔から難しい硝材にチャレンジしてきました。屈折率の大きな、大きいけれども例えば非常にやわらかく傷つきやすい難しい硝材でも、かなり早くからチャレンジしてきました。その辺にカルチャーの違いを感じます。

なるほど、明確にコンセプトに違いがあるわけですね。

ここ数年、Mマウント用のレンズにもフローティングメカニズムを入れて、これまでのレンズサイズを出来るだけ変えずに、至近距離からの性能を確保するようにしています。至近距離からの性能を上げようとすれば、どうしてもレンズは大きくなりますけど、フローティングメカニズムを入れることによって、サイズを大きくせずに性能を上げることに取り組んでいたりもしますね。

なるほどです。現行型のズミルックスの35ミリF1.4についてですが、前のモデルも先程のエルマリートと同じように、変える必要があるのかというくらい魅力的なレンズだったのですが、現行型を使ってみると、ちょっと腰を抜かすくらい素晴らしいレンズでした。この間、ライカ M Monochromのテストを行った際に、50ミリのズミクロンの新型を使わせて頂きました。正直申し上げますと、少々やり過ぎなんじゃないかなと(笑)ともかく見たことも無い凄まじい描写。形容しがたいです。ちょっと特別ですね。次元が違います。こんなレンズをリリースしてくる意図と、今後も他のレンズで同じようなことをやっていくのかということを伺いたいのですが。

このアポ・ズミクロン M f2.0/50mmは、とてもスペシャルなレンズです。市場からの要望がどうということではなくて、ライカの技術力を集約して「どこまで出来るのか」ということを、挑戦した商品なのです。これは15年くらい前から温めていた構想なのですが、フィルム時代には、ここまでの高性能なレンズを活かせる機会はなかったのです。デジタルになっても、カラーセンサーではそれほど意味がないかと思っていました。ライカ M Monochromのように、1画素1ピクセルというものになったときに、言ってみれば、今までの約4倍の解像度に単純になるわけです。カメラとの組み合わせでこそ、その性能を活かすことができるということで、遂に発表することができました。だから、フェラーリみたいなものだと日頃言っているのですが、300kmで絶対運転出来ないのですが、それだけの力を持っているというポテンシャルを示すもの。写真の仕上がりが必ずしも解像度と直結するわけではありませんが、そういうこととは別に、どこまでチャレンジ出来るのかを追い求めた商品なんですよ。

(呆れ気味に)あ〜、なるほど。どおりであの、ちょっと大人げない写りですね。

そうですか(笑)

その前のズミクロンは割とクラシカルな写りですけど、とても力強い描写であるけれども素直な絵で。一般の人達にとっても十二分にいいレンズですよね。ちょっとダメ押しとかいう言葉が当てはまらないくらい凄まじいレンズだったんです。使った感想としては。

私もけっこう好きなレンズですけども、基本設計からもう40年くらいですかね。

そうですね。かなり古いは古いですね。

それでもまだ通じるというのは、昔から "通じるようなレンズ" をライカは作っていたということです。ライカはどちらかというとボディの方をレンズに合わせていったということも言えます。たとえば、ローパスフィルターつけなかったりとかね、こんなことを含めてボディを今あるレンズに合わせて最適化していったということです。他のメーカーと逆のことをやった。ライカはライカレンズをいかすためのボディはどうあるべきかということをやってきました。

交換ボディ(笑)1つ最後にお聞きしたいのですが、ライカの超広角レンズは凄くよく写る印象です。どの焦点域でも同じ事を感じますが、特に印象的なのが超広角です。パースの付き方も自然だし、嫌なデフォルメーションもでない。このあたりの秘訣といってはなんですが、伺いたいのですが。

広角レンズについては、Mシステムそのものが、フランジバックが短いことなどから高性能な広角レンズを作りやすいのですね。それ自体が1つの秘密や秘訣とも言えます。ライカの場合は、CEOのショプフ氏もレボリューションじゃなくて、エボリューションだと、革新ではなく進化なんですと言ってましたが、ステップ、ステップでやるので、そんなにパッと急激にはやらないんですね。コンサバティブだということもあるでしょうね。あと、ライカはこの21ミリでF1.4とか、24ミリのF1.4とか、超広角の大口径レンズを出しています。他ではないですよね。そういう意味では超広角ポートレートなど、新しい写真の撮り方を提案しています。詰めるべきは詰めて、着実な進化を。しかし革新すべきは革新するといった両輪で開発を行っています。

なるほど。もう一つだけ。アポ・ズミクロン M f2.0/50mmの画を見たときに、一体どんな人が考えて作っているんだと思っていましたが、今日は、よーく分かりました(笑)これは個人的な質問ですけども、これはメーカーとして、メーカーの設計者の方としてのコメントじゃなくて全然結構なのですが、今後ちょっと作ってみたいレンズ、こんなのあるんだけどもっていうのがあれば伺いたいのですが。

(笑)今は自分のやりたいレンズを、自分で作れるといういいポジションにあるので、そんな意味ではあまりドリームレンズというのはないかもしれません。今、市場に出ているレンズ。今、自分が作っているレンズこそがドリームレンズなのかなぁと思います。

ここ数年出ているレンズをみれば、その通りなんだと思います。

ライカへ入社する前に、しばらくカメラマン修行で撮っていたのです。なかなかその時は満足する写真が撮れなかった。やっぱりカメラマンに向いてないかなとライカへ入ったのです。ライカに入り、ライカのレンズを使って写真を撮ってみて分かったのが、俺に才能が無かったんじゃない、やっぱりカメラが悪かった、機材が悪かったということです。(笑)だから良いライカレンズ、理想のライカレンズというのは、遠目に見ても良いし、寄れば寄る程、情報量が。うん。うん。というような。そんな写真っていうのは良い写真ですよね。世の中には遠目に見たら良い写真だけど、寄って行ったらディーテールが失われるような写真っていうのが多いのですけど。そんなものではなく、より情報量がたくさんある。寄れば寄る程、情報量が見える。技術者としてそんなレンズを作っていきたいのです。

きっと、こんな人がやっているんだろうな〜と思って、今日ここに来てますから。その通りで本当にうれしいです。ありがとうございました。

(笑)はい、ありがとうございました。

 

 

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