フイルム売り場を歩いていると、初めて見るフイルムがたくさんあることに気付きます。確かにフイルムの種類は減ってきていますし、値段もあがる一方。でもここ数年フィルムの面白さが再認識され、多くのメーカーのフィルムが店頭に並ぶようになってきました。長年使い慣れたフイルムが減っていくのを嘆くばかりではなく、初めてのフイルムとの出会いを楽しみたい。今回のLiveLeica、「見慣れないフイルム」を敢えて手に取って、撮影してみたいと思います。インプレッションは「最後の最後までフイルムでも仕事がしたいカメラマン」、私、位田明生。いつものライカに初めてのフイルムを詰めて歩けば、初恋のようなドキドキが。新しい恋が芽生える可能性はあるのでしょうか。たのしいスナップになりそうです。
Kentmere 100
100年の歴史を誇るイギリスのメーカー「ケントメア」の、ISO100・モノクロフイルム。近年イルフォードブランド製品を製造するハーマンテクノロジー社に吸収合併されたことで、日本にも流通するようになったようです。
まず現像から上がってきたとき、淡い調子のネガに驚きました。人それぞれネガの濃度には好みがありますが、自分は淡い調子のネガを作り、諧調を活かしながらプリントするのが好みです。本来自家現像でネガの濃度をコントロールするのですが、時間がない時はどうしてもラボ任せ。いつも使っているトライXは近年どうしても濃度の高い、硬いネガに上がってきてしまい、いくつか現像所を変えてみても同じでした。今回上がってきたケントメアのネガを見るかぎり、現像所任せでも大丈夫そうです。実際にプリントはしていませんが、3号印画紙で諧調豊富なプリントが仕上がることが予想できます。
昼下がりの路地裏。硬い太陽光が差し込んでいる。古い建物が多く残る路地は被写体として大変面白いのだが、家屋が密集しているために、どうしても周辺の光が落ちがち。輝度差が高く、ラチチュードの狭いフイルムでは手を焼くシーンだが、うまくハイライトからシャドーまで綺麗に階調が再現されている。
逆光のシビアな条件だが、柔らかな諧調でいい空気感が表現できた。
こんな老後が理想的かもしれない。
粒状性がいいのか、新緑の細やかな葉っぱが繊細に表現されている。今回はライカでスナップしているが、じっくりと三脚を構えて、風景写真に使ってみても面白いと思う。
Kentmere 400
フイルムは感度が上がるほど硬くなる傾向があるが、今回撮影してみた限りでは、柔らかく諧調が豊富でKentmere100と同じ印象。ISO400なので日常的に使いやすいフイルムだと感じます。
奥から光が差し込む古いビルの階段。粒状性は多少Kentmere100に劣るが建物のディテールは良く表現されている。
光と陰を活かすため、思い切ってアンダーに撮ってみる。さすがに暗部に粒子が浮いてくるが、粒子の形・並び方は悪くない。
F16 ・目測2m・ ノーファインダーでスナップ。ブラすことで臨場感を出してみた。オープンカフェで外と内はかなり露出差があったが、ラティチュードの広さで店内の雰囲気も感じられる写真になった。
FOMAPAN 100 Classic
チェコ・フォマ社のフイルム。フォマ社は高級印画紙で良く知られているメーカーなので、ご存知の方も多いでしょう。東欧のエスプリでしょうか。パッケージのデザインなどが個性的で、なかなかおしゃれだと思います。
現像から上がってきたネガをライトボックスで見た瞬間、ケントメアのフイルムとの違いをはっきりと感じました。あまり見かけない厚いフイルムベース。コントラストの高さを感じさせるネガ濃度。ネガの段階でも個性の違いが明確です。いつものフイルム・いつもの上がりに慣れていた目には、新鮮で刺激的なネガでした。2社でこの違い。フィルムは本当に個性豊かですね。
狙った被写体が背景から分離してくるコントラスト、立体感がある力強い描写は素晴らしい。
透明感のある光の描写。しっかりとしたビルの壁面の質感。このフイルムの乾いた描写は都会の風景に合うと思う。
正直なところ「それほどの違いはないのでは」と想像していたのですが、各メーカーのフイルムの性格は思っていた以上に個性的で、フイルムの奥深さを改めて感じさせてくれるいい機会となりました。
デジタルデータにすれば、誰でもPCで簡単に画像処理できる時代ですから、「フイルムは何でもいいんじゃないの?」なんて考えてしまうかもしれません。でも「このカメラなら、いい写真が撮れる」「このレンズなら違う写真が撮れる」と思ったことありませんか? フィルムも同じなのです。フイルムの持っている個性を実感してくると「このフイルムを使うとこんな画が上がってくる」「この画を撮るにはこのフイルム」なんていう感覚が、自分のなかにできてきます。そんな感覚が芽生えると、撮影の際に迷いも消えて、思い切った画を撮ることができるのです。
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いつものカメラにいつものレンズ。それでも、フィルムを変えるだけで新たな気持ちになります。それはフイルムカメラならではの面白さ。肴に合わせてお酒を選ぶように、撮りたい写真に合わせてフイルムを選んでみましょう。初めて使うフイルムなら、その個性を信じて遊んでみてください。きっと自分の気持ちが素直に現れた、いい写真が撮れると思います。
で、新しいパートナーは生まれたのか・・・それはこれからのLiveLeicaをお楽しみに。
※次回はカラーフイルム編。まだまだ続きます。
アシスタント時代、先輩カメラマンがベタ焼きにダーマト(クレヨンのような色鉛筆)でチェックしている姿は格好良く、憧れたものだ。そして自分もノリのいい写真が撮れた時は赤で力強く、計算通りの写真が撮れた時は右隅上に小さく白い丸を付けていたことを思い出す。綺麗にチェックがついたベタ焼きは、それだけで美しかった。
今回はスキャニングしたデータを1枚1枚PCで確認しましたが、スキャナーでベタ焼きを作ることもできます。ベタ焼きにダーマトで印をつける作業は、撮影の流れを感じることもでき、写真上達の手助けになることでしょう。ぜひ試してみてください。「印画紙でベタが欲しい」と思っている方、店頭で「現・ベタ」(現像・ベタ焼き)とオーダーしてください。少し時間はかかりますが、今でもちゃんと受け付けてくれます。