とても写真が上手な友人から、可哀相な人と言わんばかりに投げかけられた一言。まさしくそのとおりで、返す言葉はのど元までたくさん来てうごめいてるのですが、いまひとつ連なって出てこない。何を並べたところで世間で言う「説得力がない」という状態ですね。ちなみにこの一言を浴びせかけた友人は、あるとき買う気満々な状態でライカ購入の相談を持ちかけてきました。何だそりゃ?と思うのですが嫌いは好きの裏返し。そこは微笑みながら、仲間が増える歓びに浸りましょう。

人は往々にして相談してくる時点でもう決めちゃってるもんなんですね。だから否定なんかしちゃいけない。そんなときは優しくフッと背中を押してあげましょう。その彼は結局アドバイスなど必要としていなかったかのように、次の日にはものの見事に立派なライカM2をお買い求めに。あれから数年、いまに至るや焦点距離だぶってレンズを所有。そんなものなのですね、みんなそうなんです。大丈夫なんです。というわけで、本日はありがちなレンズ遍歴をトレースすることで、様々な皆様にレクイエムを捧げたいと思います。

確か内田ユキオさんの本で読んだ覚えが。「ズミクロンが買えなくてズマロンを買った」というお話。詳しくは本の方をお買い求めください。ここで書くことよりもっと佳いお話しですからオススメです。それはともかく、まさにズミクロンが買えず、ズマロンを買ってしまうのです。こんなことを書くとズマロン・ファンの方には申し訳ないのですが、何にもわからないうちの戯言とお受け取りください。ちなみに上の写真のとおり、IROOAではなく、少しお安い3本スリットの12585が付いてるあたり、崖の手前での心情がよく写り込んでいて秀逸です。F2.8のズマロンだってそれなりの値段なのです。しかしズミクロンは買えないのです。厳密に言うと、買おうと思えばなんとか買えるのですが、値段を見て恐れおののくのですね。微笑ましい時期なのです。ちなみに、ズマロンF2.8に行き着く前に、ズミター(ズミタール?)5cm なんかをすでにお試しだと思います。若しくはズマール5cmあたりでしょうか。

最初はオールドのLマウントレンズしか射程距離に入りません。当然です。10万円を超えるようなお金があるなら、そこそこの海外旅行が楽しめるのですから。オールドのLマウントレンズを使って驚きます。いきなりライカを使い始めた人を数人知っていますが、基本的には希少種にカテゴライズされるでしょう。圧倒的多数の人々は、近代的な何でもやってくれる一眼レフが入口です。当然、背景がぐるぐる巻いたりするのは意味がわかりません。「理解できない」じゃないのです。まさしく「意味がわからない」。「きっと安いからだ」と、意味不明に自分でボーダーを上げつつ、銘玉と呼ばれるレンズに近づこうとするのです。しかしズミクロン8枚玉は、さも麗しき独立峰であり、安易に登ろうものなら痛い目にあうと勝手に想像してしまう気高さに満ちております。その結果、ズミクロン8枚玉によく似たズマロンF2.8へと走るのです。しかし人は結局「頂」へ到達してしまうんですよね。その話はまた後で。

はじめてライカの世界に入ってきたら、まずレンズに一つ一つ名前があることが不思議だと思います。たとえば先ほど出てきた「ズミクロン」と「ズマロン」。ズミクロンは、なんとなく団子虫が突然変異した怪獣っぽい響きです。それからすると、ズマロンは恐らく二本足で立ってますね。連想ゲームの中ではズマロンの圧勝です。そんなことはさておき、手の届きそうにないビッグネームがたくさん並ぶのがライカの世界。ズミルックスだのノクティルックスだの。何だか本を読めばやたらと大絶賛です。そんなにいいのか。そんななのか。これまた入ってきたばかりの人には、非常に不可解な現象だと思われますが、ライカレンズの大きな特長として、オールドレンズより現行レンズ(中古)の方が安かったりするのです。もはや「ワインみたいな世界なのか・・・」と、妙に敷居が高くなります。

入り慣れない高級店で、写真の載ってない横文字メニューを見るような居心地の悪さ。そんな無垢なユーザにとって、現行レンズは天から連なる蜘蛛の糸なのです。もちろん現行レンズだって安くは無いです。しかし、オールドの大口径ほど取っ付きにくいものありません。まず残存収差が多いのと、やはりオールドだけに新品時のような性能を発揮してる個体に巡り会うことが難しいのです。まだそんなに時間も経過していない現行レンズの中古は安心感があるのですね。実際に現行レンズを手にして、その写りに感動します。種を明かせば簡単なのですが、今時大半の主力レンズはズームであり、基礎体験はズームレンズという人が多いと思われます。そこにズームよりは性能の出しやすい単焦点レンズであるということ、面倒なカメラなので必然的に撮影が丁寧になるということ、さらにライカという思い込みが加わり、感動へとつながるのです。

現行レンズを手にすると、そこで満足しそうなものですが、そもそもライカの世界に入ってきた時点で、写り云々だけではない欲求を持っているのです。現行レンズを手にした段階で、既に価格に対する価値観が若干崩落し始め、違う意味のキャパシティが貴方に備わります。そこで再燃してくるのが「ズミクロンとズマロン」の話です。むしろ再燃どころかリベンジぐらいな勢いに話が助長。比較的よい状態とは言えませんね、なんとか踏みとどまりたいところですが、さしづめ球面収差で五里霧中といったところでしょうか。もう知りたい一心です。その類の雑誌ばかり読んでしまいます。

再度オールド・メジャー級のレンズに目が向くと、とりあえず球面ズミルックス35mmあたりの"わかりやすさ"が危ない。とにかく特長のあるレンズです。開放で撮れば点光源には魔法使いのホーキが、全てが寝起きの光景の如く滲んでおります。ホワホワ具合から現行レンズに走ったのに、なぜその世界の棟梁ようなレンズへと向かうのでしょうか。もうまったくもって意味不明です。ちなみにこのレンズは歪曲が皆無に等しく、開放時、球面収差で像はかなり滲みますが、非常に線が細く繊細な描写、絞り込んでも硬くならず繊細なまま。そんな本質的な特長はこのステージで気づくはずもなく・・・。

ボケるなあ、さすがだなあ。f1をとにかく開放だけで撮ります。もはや「便所の100ワット」状態です。

現行非球面レンズは凄いな! 空気が写ってるよ!・・・空気が写るとか、何ちゃら感とか言い出すと、既に写真を撮ってるのではなく、レンズのクセを撮ってることに等しいですね。そんなことはいいや、もう楽しくて仕方ないのです。

作例で流すグダグダ感と同じく、もはや真っ白な状態でございます。ここまで来るとかなりのリハビリが必要となります。

いわゆるクロスプロセスというものです。何でしょうねえコレは。大丈夫なんでしょうか。

何の暗示ですか?

最初は超メジャーなオールドレンズ、その次にタンバールのような1本1本がそれぞれ違う描写のレンズ(単に個体差です)、いままさに現行の非球面レンズまで。時々ツボを適切に突いてくるフォクトレンダーレンズを「とりあえず買って使ってみる」なんて状態になると、もはやかなり重症です。エルマー5cmなどは、最初のタイミングで手にするか、このタイミングなのです。素朴な写りに「もうこれでいいや」と食傷気味に若干クールダウン。このあたりから、自分の好みの描写が何であるかが少し見えてくると思います。また数多くのレンズと触れてきただけあって、頭の中のイメージとレンズのチョイスがマッチしてきます。そしてだからこそ、ある種レンズなんて何でも良いと思えてくるものです。実際に手にしたもので何とかしてしまいます。

恐らく数多くの諸先輩方が同じような道を歩まれてきたのでしょう。経過年数を考えれば奇跡的と言わざるを得ないコンディションと数で、今の私たちに数多くの選択肢を残してくれている事実が物語ります。「なんだって写真は撮れるだろう」とも思いますし「これでなきゃ」というのも確かにあります。そんな狭間の中で、どうしても気になる。それはもう仕方ないですね。好きなんだから仕方ないのです。そしてそれだけの魅力がライカの世界にはあるのは紛れのない事実でしょうし、これはライカに限った話ではないでしょう。「また買っちゃったよ、ダメだよねえほんと」なんて言いながら嬉しそうに話をサラっと1時間ぐらいしてるのを見ると、それはそれでまた。言い忘れました。できる限り遠回りをせず、欲しければ一直線。これが極意でございます。

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