はてさて2回目が書けるかなと、2ヶ月ぶりにフイルムを現像に出した。たったの3本である。ネガに添付されていたインデックスシートを見ても、1コマ1コマが小さく、年の割には到来が早く認めたくない老眼も手伝って、何を撮ったのか俄には思い出せない。スキャニングの際のプレビュー画面を見て初めて記憶が蘇る始末で思わず笑ってしまう。仕事の撮影はほぼデジタルになってしまった。いまやフイルムを使うのはこのサイトぐらいのもので、まだ世に出回っていない機材を片手にロケに出かけ、忙しなくカットの確認を行うデジタル撮影のスピード感に慣れきっていると、その落差が妙に新鮮だ。しかし、たった2ヶ月というのに実に色んな所に出かけている。しかも1カット1カットに何の関連性もない。それもそのはず、ロケの最中にいいなと思ったところで「あっこれも・・・」とバッグに忍ばせたライカを取り出し撮っている。なんだろう、目まぐるしく流れる時の句読点みたいなものだろうか。巻き上げの感触がたまらなくいい。

カメラマンの中でも、私はまだフイルムを使っている方だと思う。どんなロケでもたいていフイルムライカを1台持って出ているし、実際に撮ってもいる。だが正直なところ、撮ってその場で確かめられて、フイルム代そして現像代も手間暇もかかからないデジタルで撮りたいと思う。そこでフイルムライカを使う意味は一体何だろう。デジタルの「撮って」「確かめて」というプロセスを回している最中、シャッターを切っても背面で確認できないフイルム撮影。考えてみれば全くリズムが違う。調子も狂いそうなものだ。

やっぱり、ふっと一息なんだと思う。「ああ、いいな」って。

ロケ先で熱燗を頼むことが多くなった。ひとしきりつまんで、お猪口をかざす。そうだそうだとライカを取り出して、巻き上げレバーを触りファインダーを覗く。そして数カット撮るだろうか。いや、触ってるだけの時も多い。いずれにせよ酔いも回って、現像から上がって来るまで何を撮ったかなんて覚えちゃいない。

北海道の美瑛町にある、ひどく懐かしい居酒屋のカウンターに座った。二つ三つ先の席に、一人旅らしき女性。家内が「何処からいらっしゃったんですか?」と尋ねたら、女性ではなく店の大将が「台湾からだそうです」と。台湾から女性1人か・・・と感心していると、店の電話のベルが鳴った。

「いま食べ終わりました」

大将がそう告げると、ほどなく女性が泊まってる宿のスタッフが迎えに来た。宿も店も商売といえば商売。しかし日本ってのは悪くないな、と。台湾に何か持って帰ってくれるといいね。

比較的時間に余裕のある出勤時は、途中下車して歩く。そんなときは、フイルムライカを首からさげているときが多い。鞄も抱えていない。
かがんだり、仰いだり、寄りもしない。展望台の100円入れる望遠鏡をどれどれと、あの感じでファインダーを覗く。

明治通りの懐かしい店構えのショーケースが目に止まった。店の大将の顔が浮かんだ。きっと永く続く店で、大将もこんな感じじゃないかと。
さて、事務所はもう少しだ。横着な通勤を繰り返した足の裏が少し痛い。

ロケで飛行機に乗るときは、前方通路側。プライベートの旅は前方窓側。フラップが降り始め、羽田への最終アプローチに入った頃、窓を見ると同じスピードで別の旅客機が飛んでいた。シートベルト着用サインが点灯すれば、デジタルカメラは鞄にしまうしかない。しかし、こちらは飛行機の計器を阻害するようなものは一切入ってない嗜みのカメラだ。旅客機同士が平行に飛行するシーンなんて、あまり記憶にない。嬉しくて何度もシャッターを切った。CAの女性は、チラリこちらを確認して、にこやかに微笑っていた。

家族が寝静まった深夜、煙草でやられた喉を潤すのに冷め切った珈琲をすすりつつ、スキャンした画面を眺める。それはたわいのない日常の断片であり、ある種まっすぐな個人的記録である。デジタル時代になってから、撮影の手間暇は大幅に短絡化された。しかしこれが厄介なもので、撮ってすぐ確認できれば、ある種何処まででも追い込んでいける。しかし、いかに心がけようとも、直前のカットにやはり引きずられてしまう。目的を達成するためなら、もちろんそれでいいのだ。だが、自分を何処かにひょいと連れて行ってくれそうにはない。少なくとも自分は同じ所をグルグルと回り、なぞってしまうことが多いように思う。なかなかそう簡単には自分を解放できそうにない。

ちょっとした確認、少し離れてみるブレーキ。いつ現像して画を見ることができるやらと思いつつ、ネガを眺めるひとときが頭をよぎる。

実は35mmが本当に苦手で。離れると抜けて、寄ると主張が強くなって、どうにも扱いづらい画角。それでも28mmよりはまだマシなのですが。その苦手意識を克服しようと、しばらく着けっぱなしにしていた8枚玉。過去、3-4本手に入れてきたが、その神話?に頷かざるを得ないレンズが1本だけあった。もう手放してしまって、いま使っているこの8枚玉は、ボチボチといったところ。オールドの世界はなかなか一筋縄で行きませんね。今回、フイルムはILFORDのC41処理のできるモノクロフイルムを使用。普通にDPEで現像できるので、待ちがなく重宝しています。
(編集部/K)

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