NOKTON Classicは35mmと40mmの2本がラインアップされるが、40mmはEPSON R-D1（初代）が登場した頃、それに呼応するかのようにリリースされたレンズである。本家の球面ズミルックスをモチーフとしたこのレンズは、鉄板の上に油を垂らしたかのようなボケ味、開放での滲み、その描写傾向も非常に似通う。R-D1は初のレンジファインダー・デジタルカメラだが、こんなものが世に出てくると本当にタチが悪い。ただでさえ山のようにあるライカL/Mマウントレンズ。当然ユーザは色々なレンズを取っ替え引っ替えして遊ぶわけだが、デジタルとなると撮って直ぐに写りを確かめられる。これが非常に危険。レンズ沼の底に強力な吸水ポンプを設置されたも同然だ。フォクトレンダーシリーズは、リーズナブルなのに写りが総じてよい。NOKTON Classic 40mmがリリースされるやいなや「球面SUMMILUXがモチーフ！？」と色めき立って、R-D1ユーザの多くが買いに走ったものだ。このあたりから急速にフォクトレンダー・レンズのラインアップが拡充され、現在に至るのである。

さて、昔話はさておき本題に。絞りで描写が変わるクラシカルなレンズの描写傾向そのものであり、使っていて非常に楽しいレンズである。前述の通り球面ズミルックスに似た特性を持つ。ただし、中古レンズでも球面ズミルックスほど長い間販売されていたものになると、当然古いものは様々な人を渡り歩いて新品時のような性能は望めないことがしばしばで、多くのレンズは開放のユルさに磨きがかかった状態である。事実、球面ズミルックスでも最後期あたりのレンズでは一般的に知られているその開放の描写より、はるかに良く写る。・・・NOKTONの開放の写りは、この最後期あたりの描写と似たようなものである（もう少し写る印象だが）。開放での球面収差によるうっすらとしたベールを活かすことで、まるでソフトフォーカスのような写りを独特のクセのあるボケ味と絡めて楽しめる。2段も絞ればそのベールもすっきり晴れ、実に優等生な描写だ。要するに1本で色々な描写を楽しめるお得なレンズである。しかし、開放での「ダメさ加減」にフォーカスを当てて解説しなければならないレンズというのも面白い。Mマウントのカメラボディを手に入れれば、まずこんなレンズを使っていただきたいのだ。ただし「もっと知りたい病」に罹患する可能性も高い、その入口のようなレンズであるということも付け加えておこう。

(文/編集部K)