旅にカメラはつきもの。写真が好きな方なら、きっと訪れる場所を想像しながら「今回は何を持って行こうか」なんていう楽しい悩みを経験していることでしょう。場合によっては、旅にあわせてカメラやレンズを新調するという本末転倒っぷりを見せつけて、家人に白い目で見られる方もちらほら。大丈夫、それがぼくらの「ふつう」です。

さて今回の旅の目的地は、常夏の島ハワイ。機材に悩んだときは基本が一番と、ライカM2に50mmレンズという組み合わせにしました。「50mmだけっていう潔さがいいよね」なんて思いつつも、広い景色を前に地団駄踏む自分が容易に想像できるので、カバンには15mmも1本忍ばせて。強い日差しにあわせてフイルムはイルフォードのPANF(ISO50)と、夜のために400TXをすこし。さてハワイアンブルーを前にモノクロだけとは如何なものでしょうか。

波に立ち向かっては飲み込まれ、砂浜に打ち上げられてはまた立ち向かう。海を前にした子供たちのうごきは、太平洋の真ん中でも変わらない。
しょっぱくないのだろうか、なんて考えてしまうのはオトナの悪い癖。楽しいことに一直線で突きすすむ子供の姿は、愛おしくもあり、阿呆らしくもあり、羨ましくもあり。大人はそんな子供たちを見守るしかないのである。

長年つみあげられた文化というものだろうか。彼らのビーチでの過ごし方は、腰がすわっている。
コパトーンを塗りたくっても防御しきれない日差しの下、本を読んだり、音楽を聴いたり、寝ていたり。若い人から年寄りまで、日がな一日、そんなふうに過ごしているのだ。何かをしなくてもいいという時間の使いかた。なるほど、それがバカンスということなのだろう。





ハワイでごはんを注文すると、たいていはぼくらが想像するよりも量が多く、味付けが濃い。びっくりするような身体の大きさも、これらを毎日食べていると思えば納得がいくはずだ。ふしぎなもので何日か過ごすうちに食べられるようになってくるのだが、それがいいことなのかどうかは何ともいえない。日本料理の店もたくさんあるので、胃が疲れてもご心配なく。

昔から写真愛好家がモノクロフイルムで写真を撮るのは、単に「現像からプリントまで、個人レベルでもコントロールできる」という理由が大きいのではないかと思う。道具さえ揃えれば現像が安上がりということもあるし、フイルムも100フィート缶で買うという選択肢がある。少しでも多くシャッターを切りたい人や、自分でプリントを仕上げたい人にとって、白黒写真は魅力的な世界だったはずだ。

デジタル写真が全盛になった現代、白黒写真で何かを表現したいとしても、カラーで撮った写真を白黒に変換するほうが合理的だろう。それではモノクロフイルムを使って撮影する意義とは何だろうか。美しい銀塩プリントのため。フイルムならではの表現を求めるため。もちろんそんな理由を並べてもいい。

でも敢えてこんなふうに言ってしまいたい。それは「気分の問題」なのだと。
1本のフイルムで撮れる写真はせいぜい36枚で、撮り終わるまでは感度も色も変えられない。モノクロフイルムは目で見た色をすっかり排除してしまうから、光をきちんと探さなければならない。結果が確かめられるのは、現像が仕上がってから。そんなフイルムならではの制限やテンポが、自然と1枚1枚の写真を大切に扱わせるのだ。そしてフイルムをパッケージからあけるとき、カメラに詰めるとき、巻き上げるとき。現像から上がったネガを眺めるとき。実体をともなうフイルムの感触や匂いや艶が、写真を撮るという行為を実感させてくれるのである。だからフイルムで撮りたくなる。それだけでいいのだと思う。


旅を終えて日本にもどると、休みのあいだに溜まっていたことがたっぷり押し寄せてきて、すぐに日常に引き戻されてしまいました。現像に出していたフイルムが仕上がったのは、そんな慌ただしさが一段落したころ。1枚1枚眺めていくと、シャッターを切ったそれぞれの瞬間がよみがえってきます。日差しは強くても、汗をかくことのない心地よい温度。ビールを飲みながらベランダで聴いた波の音。帰国の日の朝焼け。

旅は、日常に麻痺しつつある心に刺激と休息を与えてくれます。手に馴染んだ心地のよいカメラをお伴に、次の旅を計画しましょう。週末にちょっと行けるくらいの、小さな旅でいいのです。おいしい物をめざして、涼しい場所をめざして、温泉をめざして。レンズやフイルムは何を選びますか?

イルフォード(ILFORD) PANF 135-36枚撮
今回ほぼ全編を撮影したイルフォードの白黒フイルム。極めてシャープで繊細な描写に、豊かなトーン。びしっと決まるコントラスト。モノクロフイルムの楽しさを存分に味わえる、おすすめのフイルムです。
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