東京オリンピック開催時に突貫工事で枝葉を拡げ始めた首都高速。当時世界中の土木関係者が驚いたそうだ。それは高速道路というよりは、まるでサーキット。右から左と無秩序な合流、目まぐるしく訪れるジャンクション、難航する用地買収によって道路や河川の上に架橋せざるを得ず、車にとってもドライバーにとってもストレスフルな高低差を生むことに。初めて走れば、結構な確率で意図せぬ方面へ連れ去られるだろう。常に流れは悪く、石原都知事が「脳梗塞」と称したが、実に的を射たアイロニー。首都高はひょっとすると最も東京らしいのではないだろうか。クラッシュアンドビルドを絶え間なく繰り返すこの街は、刻が織り成す稜線などにまるで興味が無い。激しく貪欲で肉欲的。まるで細胞分裂そのものだ。その狭間を縫うように走る首都高。ここから見える景色が東京そのものなのだと感じるのだ。

超広角レンズ、ULTRA WIDE-HELIAR 12mmに、粗粒子そしてハイコントラストのモノクロームでフロントウインドウもろとも写し込むと格好良いのではないか・・・なんて、カメラを握りしめて車を走らせてみるのである。

首都高はまるでシネマのようだ。ビルの合間を縫い、アップダウンを繰り返して右に左にステアを切る。まるで幼い頃に見た、近未来を描いたSFのシーンのようだ。そうかと思えば一転、暗闇に放り込まれる。遮音壁の梁の合間からライトが差し込み、ガスがスモーク代わり。走り抜ければストロボのようなその光線に目がやられる。傍らを走るキャストは見ず知らず、二度と会うこともあるまい。面白い。Land Rover Defenderのフロントウインドウはスクエアで、まさに銀幕を彷彿させる。



首都高を走っていると、東京での生活そのものだなと感じることが多い。いや、人生そのものか。セカンド/サードにギヤは大抵エンゲージされ、エンジンに一番負担がかかる、できれば避けたいシチュエーションだ。前がスッとクリアになる。調子に乗って踏み込めば、ブラインドの先は渋滞最後尾。ぼんやり走ってれば後ろから追い立てられ、いきり立って走れば急にステアを切り込まれて邪魔されたりする。流れに逆らわず、身を委ねるが無難。そして連なるテールライト。なんだかねえ。もう一つ、写真的な眼で見ると、首都高は猛烈なコントラストである。ビルとビルの間から差し込む光は、スポットライトのようだ。当たるのは一瞬、抜けるも一瞬だ。



うまく走らせるコツは、自分の身体からセンサーを開放することだ。前走車のミラーに写る表情、ステアにかかる手、そういった先々を見通すための視認行為もさることながら、抜き去った後続車などの位置関係を頭に置く。見えない車を見ることだ。さらに自分自身を真上から自分で視る。自分を解放するのだ。これらの行為を端折って一言にしてしまえば「人の気持ちになる」ということになる。自分自身も含めて。写真的なたとえをすれば、光景と一体化する、ということになる。とまあ、そんなことをグチャグチャ考えながら走らせていれば、渋滞も苦にならない・・わけないか。

毎日決まった時間に走らせていれば、車見知り?もできたりする。何処に行くのかは知らない。いつも同じルートを走り、決まったJCTで別れる。明日乗らなくても、きっと向こうは走ってるだろう。やっぱり今日も走ってら。人それぞれ向かう先はバラバラ、グルグル回ってるようで、実は同じ所に向かってるような気さえしてくる。人と人の出会いも似たようなもんだ。話は変わるが、世に様々な建造物あれど、連続立体交差ほど美しいものはない。

1962年に京橋ー芝浦間が開通し、以来いったい何台の車が通りすぎていったのだろう。時に血管にステントを留置するが如く細かな補修を繰り返し、未だに増殖しつづける首都高。自分の車は、そこを通過するあまりにもちっぽけな一粒の刹那だ。これから先も相変わらず首都圏の流れを支え続け存在しつづけるであろう橋脚や橋桁に目をやると、この世の曼荼羅を見る気がするようであり、単にこじつけのような気もしたり。

撮影データ:LEICA M4 , Voightlaender ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHERICAL Ⅱ
(上から順に)1,3,4枚目 ILFORD DELTA 3200 PROFESSIONAL/ 2,5,6枚目 KODAK TRI-X (+2PUSH)
All Photos by A,INDEN / Written by K

フロントウインドウごと写し込むというのは、なかなか楽しい。そんな撮影を実現してくれるのが画角121°のVoightlaender ULTRA WIDE - HELIAR 12mm。この画角をミニマムなサイズで楽しめる、このレンズの存在は非常にありがたいですね。ちょっとやそっとでは御しがたいのが逆に面白い。一発、自分の作品に渇を入れたいときに、なかなかオススメ。ちなみに、あえて外付けファインダーはおすすめしないでおきます。強烈なパースに画角、ファインダーを覗くにしても、仕上がりと一致させるにはそれなりの鍛錬が必要。「ダメ」を貰うのも楽しいじゃありませんか。撮って撮って12mmを自分のものにしてください。

ハイコントラスト、かつ粗粒子で都市光景を捉えるというのは、なかなかグッときませんか。今回、TRI-X(ISO400)を2段増感現像しコントラストアップ。そしてILFORD DELTA 3200をストレートで現像。モノクロフイルム現像、増感現像ともに、ヨドバシカメラの店頭で承っています。デジタルに慣れると、現像も時間がかかれば、ネガが上がってからのスキャニングと、それはもう一苦労。だからこそ、上がりが楽しみにもなれば、ファインダーを覗くときの想像力にもムチが入ります。趣味ですから、効率とはある種無縁。フイルム撮影は、デジタル時代に突入してさらに旨みのある遊びになった感がありますよね。

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