いままで特に気にしたことがなかったのに、ふと目に飛び込んできた。何かを引き替えにするかのような値段。それがかえって気を引く。重いカメラシステム、それ故の作法から少し逃れようとしたのかもしれない。カメラやレンズを買うことで世界が拡がった気がして、もっと知りたいもっと試したいと、片っ端から手を染めたその先にひょいと現れた。・・・様々な理由で目に止まったライカ、レンジファインダー。距離計連動カムがコロを押して、三角測量と同じ原理で被写体までの距離を測り、ピントを合わせるらしい。ボディを見渡しても何も特別な機能は見あたらない。ファインダーを覗いても、なにやらブライトフレームとやらの内側が写り込むそうだが、その精度はかなりアバウト。要するにアナクロ以外何物でもない。なのに熱病的に支持する人達が居るわけで、「アナクロなんて言う前に、プリミティブさに価値があるのか!?」なんて角度を変えて見てしまった方にちょっとした話を一つ。


写真だけではなく、カメラという一つの機械・道具に興味を感じる人は、シンプルであることにややもすると無条件に反応することが多いのではないだろうか。「無駄を削ぎ落とし、考え抜かれた末の形・姿」と、連想するのである。さて、レンジファインダーカメラ、ライカは、どうなんだろう。1950年代に初代のM型ライカ、M3が登場する。
それから約60年後、最新のM9-Pが登場するのだが、驚いたことに両機の外観上の違いは殆ど無い。
機構的にも非常に大雑把に言ってしまえば、感材がフイルムからイメージセンサーに置き換わり、
不要となった巻き上げレバーが取り払われた程度である。カメラに詳しくない方に
この2台を並べても、デジタルカメラであるM9-Pの背面を見せない限り、
あまり区別がつかないのではないだろうか。60年近く経っているというのに
驚いたものである。たとえば車の世界なら、そもそも姿形からして全く
変わってくる。動かそうなんて、その時代にリアルに動かした経験が
なければちょっとキツいのではないだろうか。カメラと車という違いは
あるにしても、何だかこのカメラには「何かがあるんじゃないか」なんて
感じる方、もう少し読み進めていただきたい。

レンジファインダーカメラでは、ピントは自分で追わなければならない。しかもピントのピークは視覚的に確かめようもない。レンズのピントリングを回し、ファインダー上で二重像を合致させることで「ピントを置いた」という事実行為を認識するのみだ。カメラを使い込んでくることで、いつしか被写体までの距離を意識的に目で測るようになる。目で測って「見えない」を補完するのである。対してオートフォーカスの一眼レフでは、ファインダー像内の何処かに合焦し、それを知らせる音を聴けば「ピントが合った」と認識する。あまり大きな違いは無いように感じるのだが、自動でピントを送ってくれて、その様を視覚的に確認できるとなると、ファインダー像を「見せられる」ことに陥りやすい。つまり、ファインダー像を「画」として見て(判断して)、安直にシャッターを切ることになりやすくなると考えられる。するとどうなるだろう? 「ピントを置く」という行為が薄まり、距離感を失ったフレームに陥ったりしないだろうか。もちろん画が佳ければそれでよいのだ。しかし"こんなカメラ"に興味を持つ人は、「ピントを置く」「距離を感じる」その行為に意義を感じるのではないかと思う。若しくは「わかっていたい」と。ともかく、AF一眼レフ一辺倒だった人が初めてレンジファインダーカメラを手にすると、距離について一考させられることうけあいである。

機構上レンズは全て単焦点となる。したがって画角は固定されやすい。また視覚的にピントを確認できないため、自らの距離感に照らして被写体までの距離を測るクセがつく。当然ながら距離計ほどの精度は出ないため、絞りによる被写界深度を意識するようになる。すると今度は「ゾーンフォーカス」を活用するようになる。完全にピントを置けなくても、即時にシャッターを切る命令を視神経から直結で下せるのである。ピントを「見る」のではこうはいかない。「置く」からこそ、なのだ。


フイルムを用いるM7、デジタルのM9/M9-Pでこそ、AE(自動露出)が搭載されたが、相変わらず絞りはレンズの絞り輪で操作する。絞り、シャッター速度共に1/2段刻みであり、測光は50mm近辺のレンズを取り付けた際に最も精度が高くなる中央部重点測光である。廉価な一眼レフと比べても随分と見劣りするものだ。しかし実際の撮影では、そんなに"細かい制御"はある種不要なのである。今でこそAEが搭載されているが、露出計すら搭載されていなかったM4までは脳内露出計に頼るしかない。心配は無用、そのうち光が読めるようになるのだ。

どうだろう。色々と面倒なカメラである。しかし、自らの手で操作することが多いこのカメラは、必然的に操作する意味、つまり写真を撮る基本的な行為を否応なく考えさせられる。一眼レフの露出補正を引き合いに出してみよう。一眼レフでAEの搭載されたカメラなら、一般的には「雪景色なので補正を+1段から+1.5段ぐらいかけよう」なんてシーン毎の覚え方をするのではないかと思う。しかし何のための補正なのかその根本を理解しておかないと、覚えていたシーンから少し逸脱しただけで途端に迷ってしまう。露出計がないカメラで脳内露出計を頼りに撮影を行っていれば、そもそも「露出補正」なんて概念自体が存在しないのだ。もちろん、露出計のないカメラを使うべきだというわけではない。原理さえ知れば何事も迷うことはないのだ。ちなみに、ライカM9/M9-PもAEは搭載されている。したがって露出補正機構も搭載されているが、液晶画面内でのメニュー操作でなければ操作できない。しかし大半のユーザーがこのメニューを使っていないだろう。AEの出た目に疑問を感じたら、即座にシャッターダイヤルを操作するものと思われる。これは、AE搭載以前のM型ライカからの露出決定に関する基礎体験が備わることに起因する。原理というのは何事もシンプルで、レンジファインダーカメラそしてそのアイコン的存在であるライカは、その原理にシンプルに対応すべくアッセンブルされたカメラだ。故にこのカメラが使いこなせれば、ある時一眼レフに持ち替えたとき、その自由さに感じ入るだろう。写り込む像がファインダー上で再現されるありがたさ、寄れるありがたさ、画角に制限されないズームレンズのありがたさ。自由とは「自らに由(よ)る」と書くが、まさにその通りで、便利な機能も自らが主体とならなければ恩恵は得られないのである。もっと写真に本気になりたい人、そして撮るという行為の根源に触れたい人に、レンジファインダーカメラをおすすめしたいのである。

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まずフイルムなのか、デジタルなのか。ここまで読み込んでいただいた方は「やっぱりフイルムか・・・」なんて思われるかもしれないが、デジタルでも十分レンジファインダーカメラとしての魅力は備わる。むしろかしこまらずにデジタルから入って、思うがままにシャッターを切るのもおすすめだ。カメラのバリエーションも実に豊富で、選びたい放題。あとは目的に合わせて購入すればよいと思う。目下注目を集めるのは2011年7月に発売される(予定)のLEICA M9-Pである。これは車で言うフェイスリフトみたいなもので、センサー等をはじめとするカメラの基本的な機構は変更無く、外装等々をM9のそれからアップデートしたものである。シルバークロームの復活もファンには嬉しいのではないだろうか。それぞれのカメラを以下簡単に紹介したい。(写真・文 / K)

ライカ M9-P シルバークローム
世界ではブラックの人気が圧倒的に高いそうですが、日本はシルバークロームの人気も高く、標準でラインアップしてくるあたり、ライカ社が日本のマーケットを如何に重視しているかがよくわかります。その昔家一軒買えると言われ羨望の眼差しを注がれた頃は殆どがシルバークロームフィニッシュ。そのイメージが脈々と引き継がれているのか、確かにライカといえばシルバーの印象が強いのです。

ライカ M9-P ブラックペイント
液晶画面にサファイアガラスを用い、軍艦前部のライカロゴ・モデル名が無くなり、軍艦上部にはクラシカルなライカロゴを。そして往年のヴァルカナイト。使い古されたセリフですが、使い込むことでペイントが剥がれ、地である真鍮が顔を出す。まさに自分だけの1台に育て上げるのがブラックペイント・ボディ。

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ライカ M9 スチールグレーペイント
角度によってはチタン色に見え、シルバークロームとも趣の違うスチールグレーペイントは、M9とLEICA X1のみに今のところ採用されるカラー。

ライカ M9 ブラックペイント
カメラとしての基本的な機構はセンサーや画像エンジンをはじめとしてM9-Pと同一。赤丸ロゴ・モデル名が入った方が好みという方に。M9-Pよりリーズナブルなのも嬉しい。

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EPSON R-D1xG
世界初デジタルレンジファインダーカメラ、R-D1から数えること3代目にあたるR-D1xG。たかだか600万画素程度・・・と侮ってはならないカメラで、いまでも一級品の画を叩き出します。(ぜひサンプルギャラリーでお確かめください) ライカはちょっと手が届かない、なんて方にも勿論おすすめなのですが、買えば選んでよかったなんてことになるでしょう。

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