「フィルムインプレッション」モノクロ編、楽しんでいただけたでしょうか。フィルムの面白さは、カメラを変えることなく簡単に作風を変えられるところにあります。黒白フィルムでは、「コントラスト」「諧調」「粒状性」がフィルムの特性を決める大きな要素でした。カラーはこの3つの要素に「色調」「彩度」という新たな要素が加わりフィルムの特性が決まります。今回は以前から気になっていた、2010年秋にコダックから新発売された「PORTRA400」と、もう一つのコダックプロ用カラーネガ「Ektar100」をチョイスして「フィルムのことになるとつい独断で語ってしまうカメラマン」位田明生が、インプレッションいたします。

ここ数年「少しシアンが浮いた優しい色」「一つ一つの色が飛び出すことなく、なだらかに収まってる落ち着いた色調」そんな独特の印象を受ける写真が増えてきていると思いませんか。撮影データを見てください。たぶんそんな印象を持つ写真のほとんどに「ポートラ」と入っていると思います。ポートラは「160/400/800」という3つの感度に、160と400については「ニュートラルカラーのNC、ヴィヴィッドカラーのVC」という2つの特性を持ったフィルムに分けられ、合計5種類が発売されていました。この豊富なバリエーションは、使う目的が明快な場合には使いやすく、個性を出せるすばらしい武器となりますが、逆に使う目的が明確でない場合、その数の分だけ迷ってしまいます。

PORTRA400は、400NC・400VCを廃止して、統合されたような印象です。旧2銘柄の最も大きな違いは彩度でしたが、新銘柄のPORTRA400の彩度は旧2銘柄のちょうど中間あたりに位置づけられるようです。そして粒状性を高め、スキャニングによる傷を防止するコーティングが施されています。これはスキャニングに重きを置き、ネガの「撮影時には扱いやすく、後処理によってある程度画作りをコントロールする」という使いやすさを考えての事なのでしょうか。新しい技術により改良されたPORTRA400。この改良は、今の時代にあった大きな進歩だと感じます。しかし、旧銘柄はその独特の個性で多くの写真好きを魅了してきました。そして、最近の作品の新しい流れを作ってきたのではないかと感じます。果たしてPORTRA400は全く違うフィルムになってしまったのか、それとも旧銘柄の特性を残しながら、新たな進化を遂げるのか。旧銘柄を愛した皆さんが一番知りたいところではないでしょうか。

この少し浮いたシアンの色に、どれだけたくさんの人々が惚れたのだろうか。逆光の条件でも、柔らかいコントラストと優しい色で、春の兆しを感じる新緑の初々しさが表現されている。



画面に太陽を入れ大胆に撮ってみた。諧調の豊富さと全体に一枚色がかぶる事で、真逆光の条件だが不思議とトーンのバランスがとれている。

なんにも考えずに友達と過ごした小学生時代。そんな宝箱のように思い出が詰まった風景はポートラの彩度の低さがあう。

「時代の流れは関係ない、流行歌など歌わない」と思っているあなた。大丈夫、あなたにはEktar100があります。Ektarという名称は、Eastman Kodakがコダック発祥の地ニューヨーク州ロチェスター工場で作られた、最高級レンズにのみ与えられたものです。勘の良い方はお分かりですね。社名の頭文字2文字E・Kをとって「Ektar」、この名称、それほど自信をもって名付けられたものなのです。そしてフィルムではじめて使われたのが90年代、超微粒子を売りにしたエクター25でした。エクター25の粒状性は非常に評価が高く「ライカ判(135フィルム24x36mm)で4x5(大判フィルム100x125mm)を超える」といわれていました。そんな評判のいいフィルムがどうして廃盤に・・・? まあISO25ではさすがに一般向きとはいえなかったのでしょうね。

今回インプレッションのEktar100、このフィルム、豊富な諧調、自然な色、自然な彩度、さらに「世界最高の粒状性」をかかげ2008年10月に発売されました。ISOも100に統一され、スキャニングの傷防止のコーディングと現状にあった改良がなされ、かなり使いやすくなった感があります。コダックが絶対の自信を持って送り出す「Ektar」という名称のフィルム、果たしてこのフィルムの面白さは・・・では撮影に。



すべての色が、クリアーに表現されている。雲の色も濁ることなく真っ白に。ネガカラーだがポジフィルムを思わせる抜けのよさは、やはりエクター。



日が差し込んでいない場所は彩度が低いが、手前の鉢植え、路地奥の青みがかった部分を見ると、色がしっかりと表現されていてフィルムの彩度の高さを感じさせる。でもなだらかで落ち着いた諧調が、ネガフィルムらしい。



画面の中に太陽を入れるという悪条件で撮影。もっとフレアーっぽくなると思っていたが、フィルムのコントラストの高さがうまくカバーしてくれた。

カラーフィルムのテストは、本来同じ条件で撮り比べることが基本だと思います。それで「粒状性」「色調」「彩度」などの特性違いを分析するのが一般的かと。でも今回は、あくまでフィルムのインプレッションにしました。それは、分析することと写真を撮る楽しさは別の次元のような気がするからです。このインプレッションの作例を見て、「このフィルムでこんな写真が撮れる」「この色は面白い」「逆光で撮っても大丈夫」など、何かを感じてもらえたらと思います。それは思い込みでも独断でもいいのです。写真を撮ることは、縛られることではなく、自由に発想することなのです。

では独断インプレッションまとめ。

PORTRA400、その特性は若干旧銘柄のNC寄りだと思います。それは「ポートラはNCが好き」という自分の思い込みがそう見せたのかもしれません。でも新銘柄の「洗いざらしのジーンズのような不思議な色と落ち着いたトーン」は、自分がいつも使っているNCの持ち味と同じだと思います。そしてこの旧銘柄から受け継がれた独特の個性を持っている限り、PORTRA400は多くの写真好きを、これからも魅了し続けるのではないでしょうか。

Ektar100、色調、彩度、コントラストが自然で、バランスの取れたフィルムです。それは写真に定着された被写体が、強調されることなく、目で見て感じたままに写っていることでわかります。時代が求めるのか、どうしても特徴がある個性的なフィルム、色やコントラストを強調したフィルムが増えてきているように感じます。でもEktar100は、自分の大切な家族や恋人や友達、大好きな風景を「この目で見たままに写し残したい」という気持ちに、ごく当たりのように答えてくれる、貴重なフィルムだと思います。

個性的なフィルムPORTRA400で「流行に乗る」か自然なフィルムEktar100で「流行歌は歌わない」かは自由です。でもそんな風に考えてフィルムを選ぶのも楽しいと思いませんか。

追記:このコラムを書いているときPORTRA160が発表されました。また写真展の会場で、「イタリアのフィルム・ソラリスはどうですか」という質問も・・・フィルムイプレッションに終わりはなさそうですね。「イタリアのフィルムは、いい感じに女の子とお友達になれるのかな」なんて思いながらインプレッションしてみたいと思います。

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