Voigtländer Nokton 50mm F1.5 Aspherical VM
ブライトフレームを通して気持ちを込め、シャッターを落とす。日常の光景を誇張することなく、感じたまま切り撮りたい。そんなレンジファインダーファンにとって、35mm、50mmはその面白みを感じる欠かせない焦点距離ではないでしょうか。特に標準レンズである50mmは、オールドレンズも含めると様々な個性を持ったレンズがひしめいています。F2より明るい大口径では、ライカの Summilux F1.4だけでも1959年に誕生した初代Summiluxから4世代。カールツァイスにはC Sonnar T* 1,5/50 ZMなどのSonnar愛用者も多く、それぞれ独特の味わいを持つものばかりで、語り出したら止まらなくなる人も沢山いる事でしょう。Nokton 50mm F1.5 Aspherical もその中の一つ。1999年にLマウントで発売され、解像度の高さ、繊細な描写力などによって高い評価を得ていました。そして2013年、当時のレンズ設計はそのままに、ライカMのようなデジタルレンジファインダー機や、ミラーレス機への装着も考慮し、コーティングを強化。そしてVMマウント化と合わせスタイリングも一新し再登場いたしました。前置きはさておき、早速気になる写りをご覧ください。
( 写真 / 文 : T.Takahashi )
先ずは作例を立て続けにご覧頂きました。全て絞り開放での撮影です。いかがでしょうか。決して力強い立体感と言った印象ではありませんが、猛烈にシャープなピントのキレを感じます。前後のボケも誇張が無く自然な描写で、そのおかげでよりピントがキリッと立って見えるのでしょう。また鈍く光る瓦や、手すりの木目など質感表現も見事です。
白い陶器がガラスを通して浮き上がって見えます。反射する木々のボケの柔らかさがそうさせるのでしょうか。こういったやさしいシーンの描写を見てもレンズの良さを感じます。
趣のある描写とでも言いましょうか。うっすらと光に透ける障子、奥に見える庭石や木々の自然なボケが効いて、柔らかい明かりを点す行灯が、ぐっと立ち上がって見えます。
どうしても大口径を活かして開放を多用しがちですが、ここで絞った画もご覧下さい。絞り値はF2.4と僅かに絞っただけですが、木々を吊る縄や葉っぱ一枚一枚まで見事な解像力を感じる描写ですね。そして雪吊りを浮き立たせるかのように、僅かに残る周辺減光がいい具合に効いてくれているのも、うれしいポイントです。
最短撮影距離は70cm。レンジファインダーでの撮影感覚からすると十分で、テーブルショットなどを撮ろうと思わなければ日常スナップにおいてほとんど不便は感じません。水に浮く、色づいた楓の葉にぐっと寄ってみました。ここまで寄る事が出来ればもうマクロ撮影ですね。←言い過ぎ(笑)。
強い陽射しを受ける暖簾を開放で捉えてみました。ややオーバー気味の露出ですが、風に揺れる様子が涼しげで澄んだ空気を感じます。
当レンズの特徴として、抜けの良さと透明感も魅力の一つでしょう。ハイキーに捉えた一枚ですが、透き通るような柔らかいボケとシャープなピントが、こういった何気ないシーンでもドラマチックに描いてくれています。こんな画を見ると積極的に開放で撮っていきたくなりますね。
雰囲気のいいバーカウンターです。思わずレンズを向けました。ボトルやグラスに反射する円形のボケ玉は自然で、レンズ性能の素直さを感じます。グラスに立てられたカトラリーは立体感があり、その質感も伝わってきますね。
何気ない日常。突然訪れるカメラを向けたくなる瞬間・・・。そんな時のためにどんなレンズをマウントしておきますか。「写真は50mmにはじまり50mmに終わる。」と言われているように、これ一本でと思った時に50mmを選ぶ人は多いのではないでしょうか。そしてどんなタイプのレンズを選ぶでしょうか。 当レンズは、ご覧頂いた通り非常に高い光学性能を持ち合わせています。大口径ならではの柔らかく上品なボケ味。開放から鋭いピントのキレ。いずれもすばらしいものがあります。そしてただよい写りをもたらせてくれるだけでなく、そこから生まれた写真一枚一枚に、何か息を吹き込んでくれているかのようで、今までにない写真表現を与えてくれます。まさに銘玉が現代に蘇って来たかのようです。さらに魅力的なのはレンズの造りです。中央がくびれた鏡胴に絞りリングとヘリコイドがバランスよく配され、古き良き時代のスタイリングを彷彿させてくれています。また、そのトルク感も大変気持ちのいいもので、この辺りもコシナのレンズ造りに対するこだわりを感じます。真鍮製シルバー外装は工芸品を感じる美しさですし、アルミ製の鏡胴のブラックはマットな仕上がりでさり気なくカメラを持ち歩きたい時にはいいですね。どちらがいいか悩み出したらもう両方買うしかないでしょうか(笑)。決してお求めやすいレンズではありませんが裏切らない一本だと思います。持ってよし、撮ってよし。数ある50mmレンズの中で、現行ライカレンズとも肩を並べる性能を持つNokton 50mm F1.5。きっとあなたの愛玉になってくれるでしょう。
( 2016.01.22 )