LEICA M (Typ240), THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by A.Inden

LEICA Thambar-M 90mm F2.2

今回ご紹介するのは、ライカMマウントレンズとして復刻された「THAMBAR-M f2.2/90mm」。往年の希少なレンズを復刻するシリーズ(?)として、2016年に登場しました第一弾となる「SUMMARON-M f5.6/28mm」に続く第二弾のレンズとなります。MF時代には様々なメーカーから出ていたソフトフォーカスレンズですが、AFが主流となった時代にはほとんど見られなくなってしまいました。そういった点でも「古いが新しいレンズ」となるわけですが、今回復刻されたタンバールのレンズはオリジナルの構成をそのまま踏襲しています。また90mm F2.2というスペックからすれば、相当にスリムでコンパクトな印象です。今回の復刻にあたり、フードや専用のフィルターを含めて製品化。真鍮製の鏡胴にブラックペイントという仕上げはオリジナルと同様ですが、スクリューマウントから6bitコードつきのMマウントに改められ、鏡胴や銘板に刻まれた文字の書体や各部の細かなディテールはモダンな現代のライカにもマッチするようリファインされています。また恐らくではありますが、オリジナルとは硝材やコーティングに進化があるのではないかと期待します。では早速、気になる復刻版タンバールの写りをご覧いただきましょう。


LEICA M (Typ240), THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by A.Inden

小春日和

LEICA M (Typ240), THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by A.Inden

LEICA M (Typ240), THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by A.Inden

LEICA M (Typ240), THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by A.Inden

LEICA M (Typ240), THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by A.Inden

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温かさをまとった写り

憧れのタンバール。ライカを使ってる方なら必ず思うことではないでしょうか。約80年前に誕生したこのレンズは、生産本数が少ないだけでなく、個体ごとの描写にかなり差があるため(古いライカのレンズは、メンテナンスの違いにより個体差やかなりのバラツキがあります)、なかなか気に入った一本を手に入れるのが難しいレンズです。実際、何度か試写してみましたが自分が思い描いていたイメージに合うレンズには巡り会えませんでした。そんなわけで、「タンバール欲しい病」は少し収まっていたのですが…。新しく復刻されたと言う朗報、さらに試写できる幸運。さて、どうなってしまうのでしょうか。憧れのレンズを持ってウキウキしながら、まだ寒さが残る湘南に出かけました。

写りを一言で表現するなら、クリアで抜けのいい描写。ソフトフォーカスレンズを現す言葉としてふさわしいかどうかわかりませんが、濁らない色、キリッとしたピントピークから受ける印象で、画面全体にスキッとしたが雰囲気が感じられるのです。これは驚きでした。旧タンバールを試写した時の、一枚膜がかぶったような描写とは明らかに違っていたからです。光学設計は継承されているので、レンズの硝材の差が現れたのでしょうか。描写違いの理由はわかりませんが、旧タンバールと較べると、気難しい事は考えずに使えるレンズになったような気がします。

レンズの中央部を通る光をカットするための特長あるフィルターも、有り無しで撮り比べてみました。開放の場合、ソフトフォーカスの雰囲気はほとんど同じように思われます。ただ拡大すると、中央部のピントピークはフィルター有りの方が甘く感じられます。どちらを選ぶかは好みだと思いますが、全体的に均一にソフト効果が欲しい方はフィルター有りを、ピントピークをしっかりと見せたい方はフィルター無しという選択になると思います。タンバール使いで必ず名前が挙がってくる木村伊兵衛氏は、ほとんどフィルターを使用しなかったそうです。

まだ肌寒い湘南でしたが、ライブビューで確認しながら撮影していくうちに、そのキリッとしたピントピークにフワッとしたハロをまとった描写にどんどん引き込まれ、気がつくと陽だまりを探して撮影していました。小春日和のようなホッとした温かさを漂わせた写りがそうさせたのかもしれません。写真から幸せを感じて欲しいと常々思っています。この新しいタンバールはそんな願いを叶えてくれる1本なのかなと感じました。やばい、また病いが。(A.Inden)


LEICA M10, THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by Naz

春光

LEICA M10, THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by Naz

LEICA M10, THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by Naz

LEICA M10, THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by Naz

LEICA M10, THAMBAR-M f2.2/90mm, Photo by Naz

難しいが楽しい

今回、数時間撮影してみて率直に感じたのは、「使いこなすのが難しい」ということ。他のソフトフォーカスレンズと同様に、球面収差を利用してソフトフォーカスを実現していますから、まずはその効果の最大値が出るであろう開放絞りを積極的に使いましたが、ソフト効果は想像以上に強い印象で、少々大袈裟な言い方をすれば、描写が暴れる条件を把握できないうちは本当にじゃじゃ馬レンズのようでした。様々なオールドレンズを手にしていても、ここまで絞りによる変化の大きなレンズはそうお目にかかれないのではないか、と言ってしまえそうな程です。もちろん、使い込んでいくうちにある程度の傾向は分かってきますし、撮影も楽しくなってくるのですが、その傾向を手中に収めてコントロールしてしまおう…となるには修行の時間が足りないようでした。とはいえ、デジタルカメラの時代ですから、撮ってすぐに撮影結果を確認することができますし、EVFをつければライブビューでその写りを確認できますから、フィルム時代に比べれば相当扱いやすく、また楽しめるレンズになっていることは確かでしょう。オリジナルが生まれたのはモノクロフィルムの時代、カラーでも普通に扱えますが、このレンズが柔らかく温かみのある暖色系の光の中で撮ることが多いことを踏まえると、強い点光源の滲みの縁に青いフリンジが時々出てくるのは少々気になるところではありましたが、きっとそれも使いこなしのひとつなのでしょう。逆光にはかなり強い印象ですから、キラキラしたものを撮る時には注意が必要です。(Naz)

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LEICA M10, Thambar f2.2/90mm (Original), Photo by K

LEICA M10, Thambar f2.2/90mm (Original), Photo by Kこちらの3枚はオリジナルのタンバールで撮影したもの。今から83年前の1935年から1949年にかけて計2,984本作られたとのこと。現在ではたいへん希少なレンズとなっており、アクセサリーのフードやフィルターを含めてオリジナルを入手するのも難しいかもしれません。また生産された時代やメンテナンスの程度や経年変化もあり、個体差が相当にあるとのこと。オリジナルと復刻版を撮り比べてみるもよし、ベストコンディションの復刻版を入手するもよし、選択肢が広がったことは我々にとって嬉しいこと。素直に喜びたいですね。

LEICA M10, Thambar f2.2/90mm (Original), Photo by K


PHOTO YODOBASHI

約80年を経てもタンバールは唯一無二の存在。

昨年の11月、82年振りに復刻となったタンバール、いかがでしたでしょうか。タンバールといえば木村伊兵衛氏の作品が有名ですが、フォトヨドバシ的には50回の連載に加え、先日写真集を発売しましたスコット津村氏の「The Wind from Seattle」での作品の数々を思い出します。今回タンバールで撮影する機会を得て、レンズの持っている特長や魅力をストリートスナップという場でしっかりと引き出されているスコットさんの確かな撮影技術に改めて敬服した次第です。

より完璧な光学性能へ近づけるため複雑な構成のレンズが増える昨今において、現代とは設計思想の異なる極めてシンプルな 3群4枚構成。ソフトフォーカスといういわばクリアな描写に1枚ベールを被せたようなレンズのキャラクターでありながら、ヌケのよさを感じるのもそのあたりに理由があるように感じます。また他のソフトフォーカスレンズとは異なる前ボケの美しさに重きを置いた描写、少々値は張りますが、オリジナルから約80年を経ても唯一無二の存在故にその価値も同様に高いのではないかと思います。今回も第一弾の赤ズマロンと同様に限定数の生産ではないようですが、流通本数も限られているようです。新品のコンディションで入手できるまたとないチャンス。 ライカレンズのラインナップが充実かつ完成した今だからこそ可能な企画なのかとも思えます。この機会をどうぞ逃さぬよう。

( 2018.03.19 )




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オリジナル同様なかなかお目にかかれない希少な1本、お取り寄せになるようですが(レビュー掲載時)、手に入る今のうちにどうぞ。

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スコット津村氏の写真集、タンバール使いの方には必須の作品です。既に書籍版は完売となりましたが、電子書籍版でしたらご入手いただけます。

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